日本眼科学会:理事会から(114巻1号)
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 新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 新年早々、多くの難問があります。まず、診療報酬改定の行方です。民主党政権になって初めての改定であり、その結果が注目されています。鳩山内閣の予算配分の基本は“コンクリートから人へ”の理念であり、国民が安心して生活できる健康社会の実現のために緊急的な医療対策を実施すると宣言していました。医師不足や医師の偏在、勤務医の過重労働など医療崩壊の原点に焦点が当てられ、医療費総枠の底上げを伴う積極的な医療政策に期待が高まっていました。

 しかし、税収の落ち込みが判明するや診療報酬引き上げの既定路線は撤廃され、行政刷新会議の事業仕分けにより、論点は医療費の配分に移りました。配分問題には二つあり、診療科間の配分問題と、勤務医と開業医の配分です。この2点においていずれも眼科は非難にさらされています。

 必ずしも人の生き死にに直結しない病気を診ることが比較的多い診療科の収入を下げ、救急、産科、小児科、外科などの激務の科に手厚く配分するのは当然だとする主張が大勢を占めています。この議論の中では白内障手術の保険診療点数が、長い時間のかかる外科の手術点数と対比してよく取り上げられます。また、最近の学生が激務の科を嫌って皮膚科や眼科などの楽な科を志向していることが医療崩壊の一因とする意見も定番になっています。整形外科医、眼科医、皮膚科医の診療所の収入が高いという調査結果も報道されています。しかし、これらの意見は根拠に乏しく、医療の本質と歴史過程を無視した皮相的な解釈です。全国規模の一流紙然り、あるいは著名な評論家がテレビでこのような一面的な論調を展開するのを聞くにつけ大変悲しく思います。日本眼科学会は日本眼科医会とともに、これらの報道には事あるごとに抗議文を送付してまいりました。

 平均寿命が世界トップクラスにある我が国において、生命を維持することは万人の願いであることは当然ながら、それと同等に今求められているのは健康長寿です。国民の願いは生き甲斐のある健康長寿です。生き甲斐のある長寿を得るためには健全な感覚機能や運動機能を保持することが基本になります。とりわけ生活するうえで必要な外界情報の80%以上を認識している視覚の健全性は不可欠な要素です。生物の進化は短期間のカンブリア紀に爆発的に起こりましたが、その主原因は視覚の獲得であったといわれます。視覚を軽んじて社会の進歩や国民の幸福は成り立ちません。

 眼科の診療報酬は本当に高いのでしょうか。そもそも高い安いを判断する基準が明確ではありません。手術点数の根拠には外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の試算があります。試算表には人件費として手術の技術度、施行に必要な医師、看護師などのスタッフ数、手術の所要時間を組み合わせて算出した手術料と、ディスポーザブル製品などの医療材料費、医療器具、医療機器費用が併記されています。しかし、この外保連試算がどれだけ診療報酬決定に勘案されているかは不明です。外科医の技術に対する評価方法、社会への貢献度の算定も不明です。よく取り上げられる白内障手術について大学病院、公立病院での納入価を実態調査した結果では、眼内レンズとディスポーザブル器材の費用で診療報酬の85%を占めているということが判明しました。人件費や間接経費を考えると白内障手術点数が他の外科手術に比して高額といえる根拠はないと云わざるを得ないでしょう。これ以上の診療報酬の削減は白内障手術からの眼科医の撤退を招きかねません。白内障手術の進歩は近代手術の中でも特記されるもので、この先端技術が個人と社会にもたらした利益は莫大なものがあります。せっかくの技術を国民に広く還元できない不幸をもたらしてはなりません。

 視覚障害による損失は個人はもとより、社会的にも莫大です。平成19年度の視覚障害に基づく経済コストは約2兆9千億円です。これには診療コストや薬局調剤医療費、コミュニティ・ケア費用、介護保険費などが含まれます。個人の健康年数喪失を計算した疾病負担コストを含めると視覚障害による社会的総負担は8兆8千億円に上ると試算されています1)。視覚障害は表に現れない甚大な社会損失をもたらすのです。これに対し我が国の眼科医は明治以来、視覚の維持と失明予防に尽力し世界最低レベルの失明率を実現してきました。この実現も診療報酬の裏付けがあって可能になるものです。

 最近、眼科診療に関する残念な事件報道が続きます。コンタクトレンズ診療における違法行為、機器納入に際する収賄事件、レーシック術後の多発感染など国民に眼科診療に対する疑義を抱かせる事件です。眼科専門医以外の関与が多いとはいえ、このようなことが続き眼科を軽んじる風潮が育てば、それは現在の我々の責任です。眼科に対するこれらの報道は、最近の眼科専攻医の減少につながる一因とも考えられます。初期臨床研修制度が導入され眼科が選択科目になってから眼科専攻医の数は減少傾向にありましたが、平成21年度の新専攻医数は前年に比較してさらに25%減という過去最大の落ち込みを示しました。このまま減少傾向が続くと眼科学の将来が危惧されます。

 先人の功績を無にしてはなりません。日本眼科学会は110余年の歴史を有し臨床系学会では最も古い学会組織です。眼科学はそれだけ専門分野としての必要性があったわけで、それはとりもなおさず国民の眼科診療に対する要請が高かったことを意味します。明治以来の我が国の眼科の発展は、大学を中心とした研究志向の眼科医養成制度にあったことは否めません。負の部分もありますが、欧米の先進医療をキャッチアップし、牽引してきたのは大学における研究、教育システムに負うところが大きく、今後も先導者としての役割が課せられています。しかるに今の減少傾向が続くと、彼らが第一線の眼科医になる10〜20年後には超高齢社会で眼科患者数は増大するも眼科医は減少し、診療労働負担は激増します。独立法人化で運営交付金も削減され、大学眼科医は診療に追われ研究・教育は疲弊します。益々大学離れが進みます。臨床医学にはどうしても徒弟制度的伝統の継続が必要です。一度崩壊した基盤を作るのは至難のことです。今持ちこたえないと、眼科の発展は望めなくなり、国際的に沈下してしまいます。

 我々が誇りを持って眼科診療に携わり、次世代を余裕を持って育て、日本独自の知見を世界に発信し、その成果を国民に還元できるために今、我々ができることは何かを皆で考えるときが来ています。眼科の標榜を眼科専門医に限定することを新政権に提案することも一案です。専門分野の標榜が何の裏付けもなく野放しになっているのは我が国ぐらいではないでしょうか。専攻医教育、生涯教育のさらなる充実も必要です。すべての会員が多くの課題に取り組まねば道は開けません。日本眼科社会保険会議、日本眼科啓発会議などは良い例で、オープンな討議を経て大きな成果をあげています。我々がもっと発信しないと、眼科のことは他科の医師も知りませんし、評論家も国民も知りません。広く眼科を知ってもらい、国民の支援を受けねば眼科の発展はありません。眼科の発展のために皆で考え、行動しようではありませんか。14,000人の学会員が学会に何ができるかを考え、提言していただきたいと思います。

文献
1)日本眼科医会研究班報告2006〜2008:日本における視覚障害の社会的コスト. 日本の眼科80(6), 付録, 2009.

財団法人日本眼科学会
根木  昭

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