日本眼科学会:「日本版NIH構想」とは(117巻11号)
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「日本版NIH構想」とは

 最近の新聞などメディアで、「日本版NIH構想」という話題がしばしば取り上げられています。本構想は今後の眼科学の研究にも大きな影響を与えるものです。そこで、今回の「理事会から」では、この日本版NIH構想について取り上げました。

 「日本版NIH構想」の背景には、日本の医療産業の国際競争力の低下、すなわち圧倒的な輸入超過があります。身近な例として、眼科領域で日常汎用されている眼科の手術機器を思い起こしてみても、ほとんどの施設で外国製のものが主体となっているのではないでしょうか。厚生労働省が発表した平成23年の統計によると、医薬品の輸出額から輸入額を差し引いた金額が2兆3,929億円の赤字となっています。また、医療機器においても、輸入金額が輸出金額を5,775億円上回っています。我が国は先進諸国の中でも最も早く少子高齢化が進んでおり、今後、健康医療分野の産業が日本の経済の中でますます重要度を増すことが予想されています。現在のような輸入超過を解消することは日本経済にとって大きな課題と考えられています。

 このような医療産業における日本の劣勢状態の背景として、日本の医学研究の中で臨床研究分野の弱さが指摘されています。京都大学の山中伸弥先生がiPS細胞研究の業績で昨年度のノーベル医学・生理学賞を受賞されたことは記憶に新しいですが、医学・生命科学の基礎研究分野においては、日本は世界でもトップクラスと考えられます。実際に、NatureやScience、Cellといった基礎研究分野の世界の一流雑誌に、2003年から2007年までに掲載された論文数では、日本は米国と英国に次いで世界第3位となっています。しかしながら、臨床研究においては、New England Journal of MedicineやLancetなど一流雑誌へ掲載されている日本の論文数は少なく、世界第18位と劣勢状態にあります。米国・英国など基礎研究分野で上位を占めている欧米諸国は、臨床研究でも上位を占めており、日本だけが臨床研究論文数が極端に少ない国です。

 そこで、近年、基礎研究の成果を臨床応用に結びつけるための橋渡し研究(translational research)を重点的に進める施策が行われてきました。文部科学省により全国の旧帝大に橋渡し研究拠点が整備され、厚生労働省により全国の主要な中核病院に臨床研究中核拠点あるいは早期・探索的臨床試験拠点が整備されるなど、基礎研究の成果をサステナブルに臨床応用につなげていく体制の整備が進められてきました。ここで浮き彫りにされてきた課題が、日本の医学・生命科学系研究の予算が、文部科学省、厚生労働省、経済産業省に分散していることです。元来、文部科学省予算で基礎研究を、厚生労働省予算で臨床試験を、経済産業省予算で産業化を担うという役割があり、おのおのが有機的につながって、基礎研究の成果を臨床応用、産業化へと発展させる仕組みになっています。しかし、実際は、組織が縦割りになっているため、戦略的な連携体制を取りにくくなっているのが現状です。

 さて、本年の6月14日に安倍内閣の成長戦略である「日本再興戦略」が閣議決定されました。この中で、健康・医療分野の戦略の看板として、「日本版NIH構想」が提案されています。これは、先端的な医療・研究分野の司令塔を創設することで、基礎研究から臨床応用までの研究開発予算を一元的に管理し、一括で配分する構想です。これまで文部科学省、厚生労働省、経済産業省などの各省でバラバラだった予算の分散をなくすことにより、基礎研究の成果をサステナブルに臨床応用から産業化までつなげ、健康・医療産業の国際競争力を強化することが目的です。

 NIHとは1887年に設立された米国のNational Institutes of Health(国立衛生研究所)という医学研究の拠点機関です。年間3兆円に達する予算権限と、がんや心疾患、眼疾患などテーマごとに国立の研究所を持ち、生命科学の幅広い分野に対する支援を行っています。日本版NIH構想は、米国のNIHの良いところを我が国における制度設計に取り入れ、医療分野の研究開発の司令塔機能(日本版NIH)を創設するというものです。構想の全体像はまだ明確にされていませんが、内閣に設置されている「健康・医療戦略推進本部」(本部長・安倍首相)と、新たに設立される独立行政法人「日本医療研究開発機構」(仮称)が、司令塔としての役割を担い、がんや再生医療など研究開発の今後の戦略は推進本部が決定し、一方で、同機構がその方針に沿って、研究費を大学や研究機関に配分する権限を持つ仕組みが考えられています。

 このように、「日本版NIH構想」は医学・生命科学研究の予算を一元化するという大きな改革です。一方で、「日本版NIH構想」に対する危惧も指摘されています。まず、米国のNIH予算規模に比して、日本版NIHで想定されているのは約1/10程度であることです。予算規模そのものがこれだけ違っていて、日本版NIHは機能するのか、米国などと対等に競争できるのか、というような疑問が上がっています。そのために、予算の特定領域(例えば、がんや再生医療などの領域)への重点配分が考えられているようですが、極端な重点化は研究の多様性を奪う結果となります。また、日本版NIHの実現が、科学研究費補助金の削減を引き起こすことになるのではないかということも危惧されています。もし「出口を見据えた」研究のみに偏重すれば、多様性を持った基礎研究は衰退していく結果となります。

 現在、日本版NIHについての関連法案が、次期通常国会で議論される予定となっています。「日本版NIH構想」は我が国の医学・生命科学分野の研究の将来を担う大改革であり、眼科領域の研究・医療にも大きな影響を与えるものです。我々眼科医もその動向を注視していかねばなりません。

公益財団法人 日本眼科学会
理事 西田 幸二

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