日本眼科学会:人工知能は未来の医療をどう変えるか(123巻4号)
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人工知能は未来の医療をどう変えるか

 一昨年2017年11月号の「理事会から」を担当させていただいた際に、「今後、日本眼科学会が総力をあげて取り組むべき課題」として、人工知能(artificial intelligence:AI)などの最先端テクノロジーの導入により、健康・医療システム自体が大変革する予想をあげさせていただきました。実際に、その半年後の2018年4月には、医師なしで糖尿病網膜症を自動診断する人工知能システムが米国食品医薬局(FDA)により認可され大きな話題となりました。さらに1年経ち、今や人工知能に関連したニュースを聞かない日はないほどになっています。そこで今回は、人工知能の現状と未来について皆様と共有したく、「人工知能は未来の医療をどう変えるか」というタイトルで記することといたしました。

1.人工知能開発の歴史
 人工知能(artificial intelligence:AI)という言葉は計算機科学、認知科学の研究者であったジョン・マッカーシー博士が1956年ダートマスワークショップで使ったとされています。第二次人工知能ブームといわれる1980年代は専門家の知識と論理的ルールを組み合わせることによる人工知能システムの開発が進められました。すでにその時代にも医療応用の一例として感染症の診断と適切な抗微生物薬の処方推奨を行う「MYCIN」が開発されるなど、人工知能を医療に応用しようとする試みがありました。しかしながら、実際に蓄積された知識と論理的ルールによるエキスパートシステムはごく限られた状況でのみ有用であったようで、人工知能の向上に必要な情報を大量に収集して蓄積することは難しく、また、コンピューターが計算できるようなルールを用意できる状況も限られていたため、1995年頃から再び冬の時代を迎えたといわれています。

 状況が大きく変わったのは2006年にジェフリー・ヒントン博士によりオートエンコーダ(人手を介さず特徴量を抽出できる方法)を利用した深層学習(deep learningディープラーニング)が発明されたことであるといわれています。これにより、人手による知識の集積とルールの定義の必要がなくなり、大きなブレイクスルーとなりました。その後、インターネットを流れるデータ転送量の増大を受けて、ビッグデータという言葉が登場し、一気に応用が進んできました。

 特に大きな転換期となったのが、2012年の画像の中の物体の認識率を競うコンペティションでジェフリー・ヒントン博士率いる研究チームがディープラーニングを用いて大幅な精度向上を達成したことといわれています。これが現在に続く第三次人工知能ブームを引き起こしました。その後、米Google社の研究チームなどから、ディープラーニングを行うためのツールが無償でしかも非常に使いやすい形で公開され、加えて解析対象となる大量の情報が蓄積されるようになり、人工知能の活用が急速に進むようになりました。さらにはディープラーニングの設計を人工知能によって最適化させるという技術も開発され、今や人工知能が人工知能をより高性能にする時代になりつつあります。

2.人工知能が社会を変える可能性
 すでに社会の多くのところに人工知能が実装されています。例えば、スマートフォンでの顔認識はセキュリティーシステムや犯罪捜査、万引き防止などにすでに応用され、また、コンサートのチケットの転売防止にも購入した際の顔写真と来場した際の顔の照合などが行われている例もあります。同様に音声によるスマートフォンやパソコンの操作、自動翻訳、経済ニュースの自動作成、Gmailにおける文章の自動作成、ウェブサイトにおけるこれまでの閲覧内容をもとにしたレコメンデーションの提示など、多くの分野で人工知能が応用されています。また、製造業においても、品質管理、異常検知、単純作業の自動化が進み、コールセンターでの自動応答なども人工知能により置き換えられつつあります。近未来にさらに大きなインパクトを与えるであろう人工知能の応用は、自動運転自動車の実装でしょう。すでに試験的に公道を自動運転自動車が走っています。

 内閣府が未来社会のコンセプトとして提唱している「Society 5.0」(超スマート社会)についてご存知でしょうか? Society 5.0は人類がこれまで歩んできた狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に次ぐ第5の新たな社会であり、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と定義されています。その実現のための重要な要素技術として欠かせないのが人工知能と考えられています。

3.人工知能が医療を変える可能性
 医療における人工知能の応用も急速に進んでおり、特に画像診断ではすでに実装されつつあります。例えば、病理組織診断やレントゲン写真・CT・MRI写真の判定、内視鏡画像の判定、皮膚科の皮膚がんの検出などではすでに非常に高い精度を達成しています。また、心電図や脳波などの波形データの解析にも人工知能の応用が試みられており、身体活動量や体動と位置情報、internet of things(IoT)によるライフログを組み合わせた健康状態の把握などの社会実験も進んでいます。医療情報についてもカルテ情報からの経過予測、自然言語解析による診断推定などが報告されています。

 2018年度から内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)では「AIホスピタル」として、音声認識技術を応用した医療従事者の業務効率化、高度な医療の実現などのプロジェクトも始まっています。病院の受付における顔認証技術の実装、予約待機時間や待ち時間の短縮のための人工知能システム、医療ミス予防のための患者確認への顔認証など、人工知能による医療業務支援が標準的に活用される日も近いと考えられます。

4.人工知能が眼科医療を変える可能性
 2016年11月に米Google社が大量の眼底写真で学習したディープラーニングシステムで糖尿病網膜症の判定を眼科医と同等の精度で達成したことを報告しました。これまでにも糖尿病網膜症の自動診断を行うシステムは存在しましたが、感度と特異度の両方で非常に高いレベルに到達した本システムは大きなインパクトを与えました。2018年には医師なしでの糖尿病網膜症の診断と眼科受診勧奨を行う自律型検診システムiDx-DRが、FDAにより認可されました。また、眼底写真から、人工知能によって、心血管疾患の発症予測を行うことができることや、その派生として眼底写真から年齢、性別、血圧値などを推測できる可能性も報告されています。さらに、米Google社の傘下に入ったDeepMind社の研究チームにより、人工知能を用いたOCT画像診断システムが眼科医と同等の黄斑疾患の診断精度を達成しています。眼科は、眼底写真だけでなくOCTなど画像による診断が重要な位置を占めていますので、糖尿病網膜症以外の疾患についても、人工知能の活用が眼科医療の実臨床に活用される日は遠くないと予測されます。

5.人工知能は未来の医療をどう変えるか
 人工知能の名付け親であるジョン・マッカーシー博士は「人工知能が世の中に普及し始めれば、すぐに誰も『人工知能』をあえて意識しない社会が来るだろう」と語ったといいます。上述しましたように、人工知能はすでに現在の医療を変えつつあります。ただし、現実的には、急激に進歩する人工知能技術をいかに医療の現場に実装させることができるかについて、課題が山積しています。例えば、患者への不利益を及ぼすリスクをどのように受け止めるのかといった現実的な問題について制度を整備する必要があります。また、判断根拠をいかに解釈するか、医師の主観的な判断と人工知能による判断の間でいかにバランスを取るか、用いられている手法の科学的基盤をどのように評価するかなど、医師にとっても新たな知識やスキルが求められる時代になるでしょう。

 近未来よりももっと先の未来の医療はどのようになるでしょうか? ジェフリー・ヒントン博士が現在のディープラーニングの基本型を報告した2006年の1年前に、発明家・未来学者として知られるレイ・カーツウェル博士がシンギュラリティ(技術的特異点)という言葉を提唱しています。シンギュラリティとは人工知能が知識・知能の点で人間の脳を超える地点であり、博士は2045年にシンギュラリティに到達するという驚異的な説を自著に記しています。シンギュラリティ以降は、人工知能が単純作業だけでなく、人間に変わって知的な生産活動を行うこととなり、科学技術の進歩を主体的に担い、世界を変革するとされています。このような時期が本当に到来するか否かの未来の予測は誰にもできません。

 以上のように、人工知能により(眼科)医療システムが大きく変わる黎明期に我々は直面していると言えるでしょう。一方で、医療は患者のためにあるという原点はいつの時代にも変わりません。人工知能の医療への導入にあたっては、多方面の検討が必要と考えられますが、我々医療関係者は患者本位の医療の実現のために、主体的に関わっていくべきと考えます。

公益財団法人 日本眼科学会
常務理事 西田 幸二

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