日本眼科学会:今後の日本眼科学会の在り方(124巻10号)
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今後の日本眼科学会の在り方

 2020年は、新型コロナウイルス感染症に対する日本全体での取り組みに終始している。その根本的な戦略は、マスク、手洗い励行、人との濃密な接触を避けることであり、約100年前のスペイン風邪とほぼ同じという状況で、人類はウイルス疾患をまだまだ克服していないことを思い知らされている。そもそも人類が細菌とは異なる病原微生物としてウイルスを発見したのが19世紀の終わり、スペイン風邪へのその当時の対応はウイルス発見の直後であり仕方ないとは考えられるが、120年以上経過した現在でもウイルス疾患対策は同じであり、ウイルス疾患の病態と治療は人類の大きな共通問題であることが分かる。20世紀からの現代の分子生物学の医学への応用で我々のできることは増えてきており、ウイルス疾患のリスク予測と予防法は今後進歩するであろうが、治療法については今後の課題も多い。新型コロナウイルス感染症への対処として、我々が突きつけられている問題の解決は、自然科学の原理に基づいて行われることが必要で、相手が自然だからごまかせない。現時点では、新型コロナウイルスに直接アタックすることができず、まずは100年前と同じで逃げる(ウイルスに接触しない)ことが有力な方法である。そして、ウイルスから逃げるためデジタルシフトを活用しつつ社会活動を維持、発展させるしかなく、IT活用は社会のあらゆる分野で急速に進行している。その過程で、人間活動を支える仕組みとして21世紀になって急速に発達したグローバリズムの限界の認識、分散型社会のもつ強靭さへの再認識もなされるべきであろう。

 人間が追求する高い価値は最終的には継続的な人間の幸福であり、その実現のためには次世代を健全に育成する教育戦略のパラダイムシフトが求められている。教育におけるアナログ的価値の見直し、もしくはどうしても削減できないアナログ的なものとして、人と人との接触を確保することがある。新しい時代の眼科医療を支える眼科医育成のためにも日本眼科学会として戦略的に考えていく時期に来ているのではないだろうか。

 眼科学も含めすべての分野の教育の方法では、知識の継承、および、人としての在り方(医師としての在り方)を伝える、つまり高い倫理観、使命感、責任感といった医師として重要な価値観の継承が重要と考える。知識の継承の面においては、現代のグローバリズムを支えてきたIT技術をさらに発展させていく必要があるし、それは避けられない未来である。また、この伝える技術を発展させることは、例えば非常に複雑な人体の構造、機能を医学生に理解させるためにはきわめて有用と考える。多くの医学者の積み上げてきた情報を分かりやすく体系化することで医学教育は今後、大きな推進力を得ることになると考えられる。むしろこれは積極的に推進すべきで、日本眼科学会のみでの取り組みには大変な作業であるから、医学界全体で医学者、AIを含むITの技術者、芸術家などを総動員して取り組む必要がある。日本における医学研究のレベルの高さとそれを人に伝える技術、例えばアニメ文化などを融合させると大きな産業にもなり、世界に売り出せるかもしれない。日本眼科学会とその関連学会で取り組んでもよいプロジェクトと考える。

 もう一つの、人としての在り方(医師としての在り方)を伝える、つまり医師の価値観の継承が大問題である。これは、高等教育のみでは解決しないので、初等中等教育、高等教育、そして、医学の専門教育へとつながる教育の流れとして考えなければならない。小児期からの教育の大切さを説いた書物として、フランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソーによる「エミール、または教育について」(略して「エミール」と呼称されることもある)という秀逸な教育論がある。子供は「小さな大人」としてではなく、子供としての本性を尊重して成長を支える教育を説いている。内容は現代でも全く古びておらず、ウイルス疾患への対応がまだ解決していないように、人類が行っている教育の本質的な問題は変わっていないともいえる。新型コロナウイルス感染症の対策で知識を伝えるためのオンライン授業が大きく進歩するのと並行して、人が人を育てる仕組みが希薄になるのであれば、問題は深刻になる。人と人との接触が希薄な小児期を経て、知識はある頭でっかちの学生が医学生になったとき、どのような医学教育をすべきか? 医学部学生が医師になるための教育の基本を定めた「医学教育モデルコア・カリキュラム」(文部科学省平成28年度策定版)でも、「医師として求められる基本的な資質・能力」として、チーム医療の重要性、患者とのコミュニケーション能力の涵養などが重要視されており、「何より、一人の社会人として高い倫理観と教養を持つことを強く求める」とある。この教育のためには、臨床実習、特に医学生も診療に責任感、倫理観をもって参加する参加型臨床実習が不可欠であるが、新型コロナウイルス感染症対策の中で十分に行えないのが現実である。さらに、卒後研修(初期と専門医研修)でも、マンツーマンでの教育をいかに確保するかは真剣に考える必要がある。いつかは収束するはずの新型コロナウイルス感染症で社会構造が大きく変わるので、おそらく臨床実習や卒後研修の在り方も変わらざるを得ないであろう。変化に流されない教育システムの構築が重要である。「エミール」に書かれているマンツーマンで、個々の子供にあった教育を行い、知識を与えるのみではなく知識を使って考える能力の涵養、個性を大切にしつつ手間暇かけて考える人に育成していくのは、およそ効率とは真逆のシステムである。おそらく、本質的なことはオンラインのみでは伝わらず、時間をかけたアナログ的マンツーマンの人間関係が必須である。これを行うために大学医学部および附属病院が存在していると考えられる。大学医学部および附属病院は、多くの優れた医師が教育を仕事の柱として継続的に協力している組織であり、教育のために最先端の診療と診療を進歩させる研究を行っている。このような組織で、個々の医学生、研修医・専攻医にあった教育をしていくのには効率ではなく、濃密な人間関係が重要である。言葉を変えて言うと、個々の医師が生涯目指すべき師匠を持てるような環境を提供することである。優れた医師を育成するために関連病院、医師会等と協力しつつ、大学医学部および附属病院がマンツーマンの医学教育、医師育成で中心的な役割を果たすことが今後の新型コロナウイルス後の時代ほど重要になってくる時代はないと考えられる。

 結論として、医学教育、医師育成には、変えることができる部分はどんどん変化させ、変えてはいけない部分は頑なに守ることが重要であり、そのことを考える良い機会が新型コロナウイルスに直面している今の時代ではないかと考える。

公益財団法人 日本眼科学会
監事 山下 英俊

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