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第117回日眼総会【評議員会指名講演「眼疾患と遺伝子」】

総会 第117回日本眼科学会総会
題目 緑内障のゲノム解析―次世代医療・個別化医療に向けて―
著者 布施 昇男
要旨  主に1990年代から始まった遺伝要因が発症に関係する疾患の解析は、単一遺伝子疾患や遺伝子変異(mutation)から多因子疾患の感受性因子である遺伝子多型(variation)へと移行してきた。個人ゲノムの解析が進むにつれて、個々人の間にはゲノム全体で数百万箇所の塩基配列が異なることが判明している。この塩基配列の相違が頻度の高い疾患(common disease)の発症に関わっていることが証明されてきた。近年ゲノム全体にわたる一塩基多型(single nucleotide polymorphism:SNP)を用いた相関解析(genome-wide association study:GWAS)が盛んに行われてきているが、高頻度の多型(common variant)はその病気への寄与が比較的小さいことから、臨床研究をより精度の高いものにするためには、common variantに加えて、病気への寄与度が大きい低頻度の多型(rare variant)の解析も行うことが必要である。さらにゲノム情報を用いた次世代医療、個別化医療に向け、種々の表現型(endophenotype)との関連を調べることは重要である。本研究において、我々は緑内障の病態解明をゲノム解析の観点から検討した。
 現在まで緑内障原因遺伝子は数種類同定されているが、当初はメンデル遺伝性の家系解析からの同定が主であった。2007年、GWASによって、LOXL1遺伝子の多型と嚢性緑内障が関連すると報告され、我々を含む多施設で追試された。それ以降、SNPを用いた相関解析が主流となってきており、原発開放隅角緑内障(primary open-angle glaucoma:POAG)、正常眼圧緑内障(normal-tension glaucoma:NTG)に関連した遺伝子としてCDKN2B-AS1遺伝子などが発表された。また我々は、緑内障GLC1B遺伝子座が存在する常染色体2番上において、SNPを用いた相関解析により、Hexokinase 2(HK2)遺伝子多型rs678350がPOAG、NTGに関連していることを明らかにし、NCK2遺伝子多型rs2033008がNTGに関連していることを示した。マウスを用いてHk2、Nck2蛋白質の免疫組織染色を行った結果、神経節細胞に発現がみられ、緑内障の病態に関連していると考えられた。
 近年、遺伝子解析は、マーカーを用いた相関解析から次世代シークエンサーを用いた網羅的な解析へと移行してきている。その中でも、全エクソン解析(エクソーム解析)は、約20万個のエクソンをすべて解析するものである。これを発達緑内障早発型の解析に用いた。発達緑内障早発型では、CYP1B1遺伝子が唯一発見されている原因遺伝子であるが、新規原因遺伝子解析のために、今回次世代シークエンサーでの解析に適する症例・家系の収集を行い、エクソーム解析を行った。CYP1B1遺伝子スクリーニングの後、CYP1B1遺伝子変異陰性の症例を用い、エクソーム解析を行った。その結果、発達緑内障早発型では原因遺伝子について遺伝的異質性が高いこと、de novo変異も原因の候補であることを明らかにした。
 次に、POAGおよびNTGにおける新規原因遺伝子解明のため、POAG 1家系、NTG 2家系のエクソーム解析を行った。1000 Genomes、SNPデータベースでフィルターをかけ、各々数十個〜100個候補遺伝子を抽出した。今回の3家系に共通している候補遺伝子はなく、2家系においては神経系の細胞の分化に関連する転写因子とアクチン関連分子が候補遺伝子であった。また、一般の孤発例にも適用を開始し、この手法は緑内障原因遺伝子の探索に有用と考えられた。
 ゲノム情報を活用しゲノム医療を現実にするためには、遺伝子、環境、病気の3つの因果関係を明らかにしていかなければならない。今回、東北大学東北メディカル・メガバンクにおいて大規模バイオバンクを構築し、集積される生体試料から疾患と関連する遺伝子の同定と、それらのバイオマーカーの探索を開始した。2013年度中に1,000人(深度30倍以上)の全ゲノム配列解析を実施し、日本人ゲノムのSNPを頻度0.5%以下まで決定して日本人標準ゲノムリファレンスパネルを作成し、疾患感受性と関連する遺伝子を同定する。解析により同定した多型の中から日本人特有のもの、関連遺伝子を抽出し、日本人に最適化した緑内障SNPアレイを開発する。ゲノム情報と健康情報・診療情報とを集約することで、緑内障の予防や診断精度の向上、治療効果の向上のための緑内障個別化医療の実現を目指すことが可能になると期待される。(日眼会誌118:216-240,2014)
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