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第116回日眼総会【特別講演】

総会 第116回日本眼科学会総会
題目 視神経疾患の新しい展開
著者 根木  昭
要旨  光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)は眼科学に生体病理学ともいえる新しい分野を形成し、黄斑疾患や緑内障の診療に革新的な情報をもたらしている。緑内障の診断には他の視神経・視路疾患との鑑別が必要である。そこでOCTの視神経・視路疾患における有用性について検討した。次いで、視神経疾患の中で最も頻度の高い緑内障性視神経症(glaucomatous optic neuropathy:GON)の病態についてアクアポリン(aquaporin:AQP)の動態に焦点を当てて検討した。
 I 光干渉断層計による視神経・視路疾患の評価
 交互点滅対光反射試験(swinging flashlight test)は相対的瞳孔求心路障害(relative afferent pupillary defect:RAPD)を検出する容易で敏感な他覚的検査である。片眼性視神経萎縮20症例でswinging flashlight testにおけるRAPD量とOCTで測定した網膜神経線維層厚(retinal nerve fiber layer thickness:RNFLT)の両眼間の比には有意の相関がみられた。OCTによりRAPDという両眼の視神経機能障害の差を、構造的な差として把握することができた。外傷性視神経症4例において受傷直後よりRNFLTおよび神経節細胞複合体(ganglion cell complex:GCC)の経時変化を観察した。OCTによりRNFLT、GCCは受傷後2週から20週の間に急速に減少することが分かった。視交叉症候群34眼でRNFLTを測定すると、視神経乳頭周囲の水平方向では垂直方向に比してRNFLTは有意に減少していた。このことは視交叉症候群にみられる視神経乳頭の帯状萎縮が、OCTにより量的に把握できることを示した。視索症候群でRNFLTを測定すると、患側では視神経乳頭の垂直方向の水平方向に対する菲薄化が、対側では水平方向の垂直方向に対する菲薄化が確認された。またGCCでは患側の中心窩から耳側半側の菲薄化、対側眼では鼻側半側の菲薄化を示した。これらは視索症候群における患側視神経乳頭の砂時計状萎縮、対側における帯状萎縮、また同名半盲を構造的に捉えていることを示す。OCTはこのように視神経・視路疾患の評価にも有用であったが、限界もある。視交叉症候群ではOPTvue 100とCirrusで測定したRNFLTの非薄部位はまったく逆の結果を示した。これはRTVue 100のほうがCirrusに比較して視神経乳頭鼻側の薄いRNFL評価に優れているためであった。OCTの評価には機種の特性を考慮する必要がある。
 II 視神経におけるアクアポリンの動態
 AQPは細胞膜を水が効率よく通過できるための水チャンネルを構成する膜蛋白質である。従来、視神経にはAQP-4が発現していることが報告されていたが、AQP-4は球後の有髄神経部位にのみ発現し、視神経乳頭に発現するAQPについては不明であった。我々はラット、サル、ヒトで視神経におけるAQPの発現を検討した。無髄神経部位の前篩状板部、篩状板部ではAQP-9のみが発現し、有髄神経部位ではAQP-4とAQP-9が発現していることを認めた。これらはglial fibrillary acidic proteinと共発現したことから、アストロサイトに発現していることが分かった。ラットにおいて高眼圧眼を作製するとAQP-4の発現は変化がなかったが、AQP-9の発現は著明に減少した。この現象はサル高眼圧眼、ヒト緑内障眼でも同様であった。AQP-9は水のほか、乳酸などの溶質も輸送するアクアグリセロポリンに属する。近年、神経科学の分野ではアストロサイトから神経細胞への乳酸の輸送が神経細胞のエネルギー基質になっているというastrocyte-to-neuron lactate shuttle hypothesisが提唱されている。眼圧上昇による視神経乳頭におけるAQP-9の発現低下はGONの発症に深くかかわっている可能性がある。(日眼会誌117:187-211,2013)
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