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第119回日眼総会【特別講演】

総会 第119回日本眼科学会総会
題目 日本人の加齢黄斑変性
著者 吉村 長久
要旨  日本人の加齢黄斑変性(AMD)には、欧米人で記載されてきた特徴が必ずしも当てはまらないことがある。例えば、日本人では眼底にドルーゼンがないにもかかわらず脈絡膜新生血管(CNV)を比較的高齢患者に認めることがある。また、日本人のAMDにはポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の頻度が高いことが知られている。このような日本人と欧米白人のAMDの臨床像の違いと、その違いが発生する理由は私の主要な関心の一つであった。この総説では、日本人AMDの特徴について、我々の研究結果をまとめてみたい。
 I.日本人のAMD有病率と臨床的特徴
 AMDの有病率を知るには、コホート研究が重要である。日本人のコホート研究は欧米に比べて遅れて始まった。また、コホートの規模が比較的小さく、このためAMDのように比較的有病率の低い疾患の研究を行うにはデータの蓄積が不十分である。しかし、アジア人を対象としたコホート研究のメタ解析によって、アジア人のlate AMDの有病率は欧米人と大差がないが、early AMDのそれは低いことが分かっている。我々が最近実施した長浜0次健診では、ドルーゼンの有病率がこれまでの報告よりも高い結果が得られた。近い将来に萎縮型AMDの有病率上昇が考えられる。
 日本では滲出型AMDを典型AMD、PCV、網膜血管腫様増殖(RAP)の3つに区別することが一般的であるが、その区分に明確な基準はない。日本人滲出型AMDの特徴を白人のそれと比較検討するために京都大学病院眼科の連続症例約100例とフランスのグループの連続症例約100例の画像を交換し、それぞれの診断の特徴と滲出型AMDの区分について検討を行った。その結果、2つの施設での診断が必ずしも一致しないこと、同一の診断基準に基づいて診断をつけても日本人にはPCVが多いことが明らかとなった。
 II.PCV
 日本人の滲出型AMDの約半数はPCVである。PCVはその造影所見が特徴的であるため、通常の滲出型AMDとは異なった疾患であると考えられてきた。そして、PCVの本態がCNVであるのか、それとも脈絡膜血管異常であるのかについて議論が繰り返されてきた。我々の検討では、PCVの中には約20%の頻度でアーケード血管を越えるような大きな病巣を持ち、瘢痕化病巣を形成して重篤な視機能障害を起こす症例があることが分かった。また、下方ぶどう腫や網膜色素線条に続発する二次性PCVが存在することは、PCVに多様性が存在していることを示している。これらの事実は、PCVが一つの疾患ではなく、インドシアニングリーン蛍光眼底造影(ICGA)検査の所見である可能性を示唆する。スペクトラルドメイン光干渉断層計による検討では、PCVの異常血管網はBruch膜と網膜色素上皮の間に存在している。また、網膜色素上皮剥離のある症例では、異常血管網に連続したCNVが剥離した網膜色素上皮の裏面を這うように進展している状況が観察できる。このような所見は、PCVの本態が脈絡膜血管異常ではなく、type1 CNVであることを示している。
 滲出型AMDの発症に補体H因子(CFH)遺伝子多型や10番染色体長腕(10q26)に存在するARMS2/HTRA1遺伝子多型が重要であることはよく知られている。日本人ではCFH Y402H多型の頻度が低いため、ARMS2/HTRA1遺伝子多型の重要度が高いが、PCVでも滲出型AMDでもARMS2 A69S遺伝子多型では白人のARMS2 A69S遺伝子多型で認められるのとまったく同一の443塩基欠失と54塩基挿入を伴っていた。このことは、日本人と白人が、そして、PCVと滲出型AMDが共通の遺伝的背景を持っていることを示している。PCVは独立した疾患と考えるよりも、ICGA検査で特異な所見を示す滲出型AMDの一亜型と考えるのが妥当であろう。
 III.脈絡膜透過性亢進を伴う滲出型AMD
 日本人の滲出型AMDでは、脈絡膜透過性亢進を示す症例が20〜30%程度に認められる。このような症例は脈絡膜厚が厚く、ドルーゼンを欠く傾向があり、比較的進行が緩徐で視力予後が良いことが多い。最近、“pachychoroid neovasculopathy”という疾患概念が提唱されたが、このような症例の多くは“pachychoroid neovasculopathy”に相当すると考えることができる。脈絡膜透過性亢進を伴わない滲出型AMD群、“pachychoroid neovasculopathy”に該当すると考えられる滲出型AMD群、そして正常対照群について代表的なAMD疾患感受性遺伝子であるCFH I62V多型、ARMS2 A69S多型のリスクアレル頻度を検討したところ、“pachychoroid neovasculopathy”と考えられる症例では、2つの遺伝子多型が正常対照群に近く、“pachychoroid neovasculopathy”ではない滲出型AMDとは異なっていることが分かった。このような症例では、既知のドルーゼンが重要な役割を果たす滲出型AMD発症機序とは異なるCNV発生メカニズムが存在しているのかもしれない。
 IV.日本人の萎縮型AMD
 前述の長浜0次健診で眼底にドルーゼンを認める受診者が多く認められることは、将来、日本でも萎縮型AMDが重要になることを示唆している。近年、ドルーゼンの再定義が提唱され、なかでもreticular pseudodrusen(RPD)の重要性が認識されつつある。RPDは日本人のlate AMDにもしばしば認められる所見である。RPDの本態、存在部位については、議論があり決着したとはいえないが、網膜色素上皮よりも神経網膜側に存在するドルーゼン様物質との考え方が有力である。我々の検討では、late AMDの18.4%にRPDを検出し、RAPや萎縮型AMDで高頻度に認めたが、PCVには少なかった。RPDではARMS2 A69S多型が有意に高頻度に認められた。そして、RPD症例では脈絡膜菲薄化、脈絡膜血管密度の減少も認められた。(日眼会誌120:163-189,2016)
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