ガイドライン・答申

2009/11/10

ラニビズマブ(遺伝子組換え)の維持期における再投与ガイドライン

緒言
 中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性症の治療薬であるラニビズマブ(遺伝子組換え)が「ルセンティス®硝子体内注射液2.3 mg/0.23 ml(ノバルティスファーマ株式会社)」として平成21年1月に承認された。その用法および用量は、表1のとおり、導入期として1か月ごとに連続3か月間(本剤の投与は連続3回)硝子体内投与し、その後の維持期においては、症状により投与間隔を調節する、いわゆるフレキシブル用法(pro re nata:prn、as needed)となっている〔ルセンティス®硝子体内注射液2.3 mg/0.23 ml添付文書、2009年1月作成(新様式第1版)〕。さらに、用法および用量に関連する使用上の注意として、維持期には1か月に1回視力などを測定し、その結果および患者の状態を考慮し、本剤投与の要否を判断する旨規定されている。
 このフレキシブル用法には、導入期の投与により平均として得られる視力改善を維持期においては最少限の投与回数で維持することが期待できるという有効性上のメリットがある。それに加えて、毎月投与する必要のある患者も想定されるものの、大多数の患者では硝子体内注射という高侵襲な投与の回数を減らせるという安全性上のメリットもあり、合理的な用法と考えられる。実際に投与回数が減れば、注射による身体的・精神的負担や、注射後の感染リスクが低減するだけでなく、結膜出血などの注射手順に関連する有害事象を含む有害事象全体の発現も低減すると考えられる。
 この用法は、本剤の国内外の臨床試験でEarly Treatment Diabetic Retinopathy Study(ETDRS)視力検査表による最高矯正視力スコアの平均値が、本剤を1か月ごとに連続硝子体内投与することにより投与開始後から急速に改善し、3か月後までにはプラトーに達するとの結果に基づいて設定された。すなわち、最初の3か月間に本剤を1か月ごとに連続3回投与すれば、平均として視力改善が得られることから、まず3か月間の導入期が設定された。さらに、その後は患者ごとに症状、特に視力などが悪化した場合に投与すれば、導入期に得られた視力改善をその後も維持できるとの国内臨床試験結果に基づいて維持期の用法が設定された。この国内臨床試験では、最初の12か月間は本剤が月1回硝子体内注射されたが、その後の継続投与期では、連続する2回の来院時にETDRS視力検査表による最高矯正視力スコアとして5文字を超える悪化が認められた場合、光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)やフルオレセイン蛍光眼底造影(fluorescein angiography:FA)などの所見も考慮して再投与することを基準として実施された。継続投与期での投与間隔は同一患者内でも一定ではないものの、全例の年間平均投与回数は3.98回と推定され、月1回投与の1/3程度に減少したが、投与12か月後までに得られていた最高矯正視力スコアの平均値はその後もほぼ維持された(中間集計)。
 このように、用法上の維持期における本剤の再投与は、有効性指標である自覚的視力の毎月の検査結果を主とし、他覚的な眼科学的検査結果も考慮して総合的に判断することが基本と考えられる。
 一方、臨床試験で用いられたETDRS視力検査表は本邦のみならず、世界的にも一般診療にはほとんど用いられておらず、臨床試験での再投与基準をそのまま一般診療に応用することはできない。しかしながら、上記のフレキシブル用法を実際の診療で活用するには、ETDRS視力検査表で測定可能な微小な視力変化を同程度に検出することが可能で、かつ実用的な視力検査方法の確立が必須となる。
 諸外国での本剤の用法をみると、米国では月1回投与が推奨されているが、月1回投与ができない場合は、効果は減弱するものの、最初に月1回で4回連続投与した後は3か月に1回投与に投与頻度を減らせる旨のみを記載し、維持期の再投与の基準は規定されていない。一方、米国と異なり、欧州の用法では、月1回、連続3か月間投与する導入期(本剤の投与は連続3回)から開始し、その後の維持期では視力を月1回検査し、5文字(ETDRS視力検査表、またはSnellen視力検査表の1行に相当)を超える視力低下が認められた場合に再投与するが、投与間隔は1か月を下回らないと規定されている。欧州では5文字を超える視力低下を再投与の基準として規定しているものの、実際の診療での視力検査方法や、他の検査所見を考慮するか否かなど、具体的な再投与基準としては、欧州の5文字超以外、治療ガイドラインを含めて特に触れられていない。
 一方、本邦では、視力は一般に万国式試視力表(以下、小数視力検査表)を用いて検査され、小数視力で表示される。この小数視力は最小可視角(分)の逆数で表されるため、各視標間の視力差は等間隔ではない。このため、本邦で一般的な小数視力に基づいて、本剤投与の要否をどのように判断するのか、さらには他の他覚的な眼科学的検査結果をどのように考慮するのかは、添付文書の用法および用量の記載だけでは明確ではない。
 そこで、本邦における実際の診療状況を踏まえて、より具体的に本剤の維持期においてフレキシブル用法により適切に再投与を行うためのガイドラインを作成した。以下では、まず小数視力検査表を用いて微小な視力変化を検出するための視力測定方法と視力悪化の基準を提示し、次いで視力検査以外の眼科学的検査による網膜病態の判断基準を提示した上で、これらを総合的に考慮し、視力維持を目的として考案した本剤の維持期における再投与アルゴリズムを供覧する。

ラニビズマブ治療指針策定委員会
田野 保雄、大路 正人、石橋 達朗、白神 史雄、所   敬、湯澤美都子、吉村 長久