ガイドライン・答申

2011/08/04

障害福祉統計の整備について―根拠に基づく障害者福祉にむけて―

日本学術会議臨床医学委員会障害者との共生分科会 提言

  1. 現状及び問題点
     近年、現行の障害者認定や支援の制度に対して、障害をもつ人々の間で不公平感が表明され、また、従来の制度における障害種別のいずれにも該当しない障害をもつ者が存在する事が明らかになってきている。不公平感を生む大きな原因として、われわれは先の報告書(身体障害者との共生社会の構築を目指して:日本学術会議臨床医学委員会障害者との共生分科会、平成20年6月26日)の中で、現在の障害認定基準が医学の進歩等により、実情にそぐわない点がいくつも生じている事を指摘した。
     一方、近年、障害を疾患・傷害の結果とみる「医学モデル」から、疾患・傷害による機能障害(impairment)をもつ人が「社会の障壁」によって受ける社会への参加の制約と捉える「社会モデル」による障害(disability)へと捉え方の変更が求められている。われわれは「社会モデルにより定義される障害」と機能障害(impairment)との因果性、「社会モデルにより定義される障害」と「医学モデルにより定義されてきた障害」との相違点、「社会モデルにより定義される障害」の程度の評価法などについて多くの検討課題があることを確認した。
     これらの課題について、われわれは、多方面の関係者からヒアリングを行い議論を重ねてきたが、既存の資料に基づく議論の中からは、障害認定についての改革案を案出する事は不可能との結論に至った。障害の認定に当たってはimpairmentの存在を医学的に証明することが必要であり、一方、障害者が自立して能力を発揮できるよう行われる機能回復、更生相談・指導、生活訓練・指導、援護育成などの公的支援制度の妥当性と公平性はimpairmentと自立生活の制限、社会的障壁による参加制約ならびに障害当事者のニーズとの関係性が一定の基準により把握され、ニーズに対する支援サービスの効果が論理的に説明、実証されて初めて担保されると考えるに至った。

  2. 提言の内容
     障害者福祉の向上のためには、障害者の実態が把握され、障害者への支援がニーズに応じて、公平に提供される体制整備が必要である。そのためには、障害者の数、障害の程度、福祉ニーズの種類と必要度、支援サービス利用などの実態が把握され、障害者の保健・医療・福祉施策の重要性、公平性・公正性を示す根拠が示される仕組みを整えることが必要である。根拠に基づいた施策を進めるためには、現行の統計制度を整備し、データを蓄積し分析・管理する組織を整備するとともに、新たな前向きコホート研究(対象集団を設定した前方視研究)が必要であると考え、以下の提言を行う。

    (1)行政データの収集・解析システムの構築
     公的な機関において、国や地方自治体が有している障害者に関する各種行政データを、「個人情報の保護に関する法律」のもとで、収集・集積し、二次分析を行う恒久的な公的な機関を設置し、障害福祉に関するデータを集積し、分析する体制を整備し、障害福祉施策の推進に役立てていくべきである。

    (2)定期的な障害に関する総合的調査の実施
     社会環境の変化、制度の整備、医学の進歩にともない、障害者のニーズは変化するであろう。また、制度の谷間などの問題も顕在化するであろう。
     これらの課題に対応するためには、現行の定期的調査を発展させ、総合的な障害に関する定期的調査を実施することを提言する。

    (3)地域における前向き調査研究の立ち上げ
     社会の変化と連動して障害の定義も範囲も変わりうる。ある地域において、長期にわたり、障害者の健康・生活状態について、健康・保健、医療、介護、生活、教育、就労、障害者福祉などに関するデータを総合的かつ継続的に収集・分析する調査研究を提案する。
日本学術会議ホームページから、提言書全文がご覧になれます。
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