ガイドライン・答申

2012/04/10

Behçet病(ベーチェット病)眼病変診療ガイドライン

 Behçet病(ベーチェット病)は近年大きな変貌を遂げつつある。以前は非感染性ぶどう膜炎の中でベーチェット病が15%前後を占め、本邦では最も頻度の高いぶどう膜炎であった。ベーチェット病は常にVogt-小柳-原田病やサルコイドーシスを凌駕し、昭和47年にはスモン病などと並んで最初の厚生省特定疾患(いわゆる難病)に指定された視力予後不良の全身疾患であった。しかし、ここ30~40年の間にその疫学的特徴は大きく変貌した。例えば本病の発症率は著明に低下し、さらに軽症例の増加がみられるようになった。一方、世界的に本病の多発地域であるシルクロード沿いの諸国をみると、発症率の低下や軽症例の増加は日本のみでみられる現象であり、未だに新規発症患者数が増加している国が多数みられる。
 ベーチェット病の診断基準は眼科、リウマチ内科、皮膚科、外科、歯科口腔科などの臨床各科が検討を続け、国内では厚生労働省ベーチェット病調査研究班が、また世界的には国際ベーチェット病学会(International Society for Behcet's Disease)が中心となって作成、改訂を続けてきた。しかし、これらの診断基準ではベーチェット病の眼病変は単に前房蓄膿性虹彩毛様体炎、あるいは網脈絡膜炎として記載されているのみであり、その臨床症状の特徴、他の感染性あるいは非感染性ぶどう膜炎との違い、眼病変の診断や鑑別診断について詳細な検討はなされてこなかった。一方、21世紀に入ってからはぶどう膜炎の治療にも新しい生物学的製剤治療が導入され、従来の治療法とは異なる大きな発展を遂げつつある。このため、これらの多面的な最新情報を取り入れた新しいベーチェット病眼病変診療ガイドラインを確立することが厚生労働省、あるいは特定疾患調査研究事業において数年前から要望されるようになった。
 これらの事情に鑑み、我々は2008年から「厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業ベーチェット病に関する調査研究班」に所属する5箇所の眼科研究施設(北海道大学、北海道医療大学、東京大学、東京医科大学、横浜市立大学)を中心として、ベーチェット病眼病変診療ガイドラインの作成委員会を立ち上げた。そして施設ごとに分担する項目を決め、それぞれの委員が文献収集や臨床データの整理、解析を行うとともに、合計7回のガイドライン作成委員会を開いて、その詳細を鋭意検討した。世界的にみてもベーチェット病の眼病変に関するガイドラインは見当たらないため、我々が独自にガイドラインを作成しなければならなかった。しかし、各委員、各参加施設の熱意と協力の結果、今回ようやくその成果が本ガイドラインとして結実することになったのは、誠に喜ばしい限りである。我々のガイドラインは厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業ベーチェット病に関する調査研究班を介して厚生労働省にも報告されたが、本ガイドラインはそれをもとに日本眼科学会会員に向けて作成されたものである。
 本邦では今後、典型的な重症例の減少により、ベーチェット病眼病変の診断、鑑別診断が難しくなる可能性がある。また、新しい生物学的製剤治療の導入に関する最新情報をもとに本病患者、家族と視機能維持のための長期治療戦略を相談する頻度が高まることも想定される。そのような折には、ぜひこのガイドラインを参照していただき、本病患者のquality of life、さらにはquality of visionの改善に有効活用していただければガイドライン作成委員、関係者一同にとって望外の喜びである。最後に、この3年間本ガイドライン作成に多大なご尽力を賜った委員の皆様、そして各施設の協力者の皆様に深甚なる謝意を表するものである。

ベーチェット病眼病変診療ガイドライン作成委員会
委員長:大野 重昭
蕪城 俊克
北市 伸義
後藤  浩
南場 研一
水木 信久

ベーチェット病眼病変診療ガイドライン作成委員会
委員長:大野 重昭
委員:蕪城 俊克、北市 伸義、後藤  浩、南場 研一、水木 信久
執筆者:飛鳥田有里、大野 重昭、蕪城 俊克、北市 伸義、後藤  浩、坂本 俊哉、渋谷 悦子、南場 研一、藤野雄次郎、水木 信久、目黒  明、横井 克俊(五十音順)

医療は本来医師の裁量に基づいて行われるものであり、医師は個々の症例に最も適した診断と治療を行うべきである。ベーチェット病眼病変診療ガイドライン作成委員会は、本ガイドラインを用いて行われた医療行為により生じた法律上のいかなる問題に対しても、その責任義務を負うものではない。