2021/10/08

保険理事より

 日本眼科学会保険理事を担当しております。前理事会でも保険理事を担当させていただいておりました。これまでの経験を活かして、引き続き社会保険に関わる仕事を続けていきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。
 我々の日々の診療は医療保険によって成り立っています。保険診療が認められていない技術や治療に関しては自費診療になりますが、日本では、国民健康保険が行き届いた国であり、病気になった患者さんが病院やクリニックにかかる場合、保険診療を受けることが当たり前になっています。ただ、医学は日々進歩し、新しい医療技術や薬剤、医療材料はどんどん現れます。これらの新しい診療技術等が保険で認められる(保険収載される)ようになるためには大きく3つルートがあります。
 一つ目は、よく知られている薬剤や医療材料の場合の「治験」です。これは開発した製薬会社や医療機器メーカーが事前に医薬品医療機器総合機構(PMDA)に相談して、プロトコルに則って治験を行い、有効性と安全性が証明されれば厚生労働省(厚労省)が承認を行うというものです。その後、価格(薬価)が決定され市場に出回り、我々が患者さんに対して処方できるようになります。最近では医師主導による治験も行われています。治験には通常長い年月がかかります。ただ、きっちりと有効性および安全性を証明し、我々が安心して薬剤や医療材料を患者さんに提供するために必要な工程だと考えます。
 二つ目は2年ごとの診療報酬改定時に新規の技術として認めてもらうことです。これは薬剤や医療機器というよりも、手術や検査、処置などが対象となります。我々が日々行っている診療にはそれぞれ手技や検査に対して保険点数がついていますが、日々進歩している医療技術に対応するため、診療報酬を改定する審議が2年ごとに行われています。この診療報酬改定について審議する厚労省の諮問機関が、中央社会保険医療協議会〔中医協(ちゅういきょう)〕です。この中医協の答申に基づいて厚労省が診療報酬の改定を行います。
 この改定をしていただくためには、厚労省に要望を出す必要があります。要望は学会ごとに出すのですが、この学会の要望を取りまとめているのが外科系学会社会保険委員会連合〔外保連(がいほれん)〕です。外保連は、学術的根拠に基づいて診療報酬の適正化を図ることを目的とした外科系学会が集まった団体です。2021年8月現在、112学会が加盟しておりますが、日本眼科学会は1967年の外保連発足時から参加しています。現在、眼科から、日本眼科学会、日本眼科医会をはじめ日本眼科学会の関連学会として、日本眼科手術学会、日本白内障屈折矯正手術学会、日本緑内障学会、日本弱視斜視学会、日本網膜硝子体学会、日本角膜学会、日本神経眼科学会(加盟順)が外保連に加盟しております。診療報酬改定の際に、各学会が作成した改定要望は外保連を通じて提出されます。
 来年(2022年)は、2年ごとの診療報酬改定の年に当たります。改定の前年の夏に厚労省とのヒアリングが学会ごとに行われます。今回は、コロナ禍ということもあり、すべてWeb会議となり、眼科関連団体は8月2日(月)と8月5日(木)の二日間で行われました。今回、日本眼科学会からの要望として、新設4件、改定6件、材料1件を提出いたしました。今回のヒアリングでも、それぞれの要望に対して新しいエビデンスの有無やガイドラインの有無について詳しく聞かれました。詳しい内容については、10月に開催されます第75回日本臨床眼科学会(シンポジウム21「診療報酬改定ヒアリングをふまえて」)でご報告させていただく予定です。今回の日本臨床眼科学会はWebでのオンデマンド配信もございますので、多くの先生方にご参加またはご視聴をお願いしたく存じます。
 新しい診療技術等が保険収載されるための三つめのルートが「先進医療」になります。先進医療は、将来的に保険診療の対象とすべき技術かどうかについて評価するために、未だ保険診療の対象とならない医療技術と保険診療とを併用することが認められた「評価療養」です。眼科では、2020年3月まで先進医療Aであった「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」がよく知られています。
 先進医療の評価は、厚労省の先進医療会議で行われ、実績報告を参考に、保険収載に際して十分な科学的根拠があるかどうか検討されます。その先進医療会議での評価をもとに、その技術の保険導入が適当かどうかを中医協で検討されます。前述の「多焦点眼内レンズ」の場合は、10年を超える先進医療としての期間がありました。ただ、これは他の技術に比べて非常に長い期間でした。多焦点眼内レンズは素晴らしい技術で、恩恵を受けた患者さんは多数おられますが、しかしながら結果的には、「保険収載となるには妥当ではない」という評価となりました。先進医療が保険収載されるための評価にはエビデンスの集積が大変重要です。各技術とも、学会が一致団結してエビデンスを集積する必要があります。さらには先進医療の申請の段階から出口を見据えた戦略が必要だと考えます。
 診療報酬改定や先進医療の保険導入に関わる中医協での会議は、例年どおりだと、本年12月から来年1月にかけて開かれます。現時点では、どうなるか全く未知ですが、日本眼科学会は、今後も日本眼科医会および関連学会と密に連携をとりながら対応していきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

公益財団法人 日本眼科学会
常務理事 堀  裕一