理事会から

2023/03/10

新専門医制度の課題、地域偏在、専門医のメリット

 今後の課題
 2022年10月から眼科における新専門医制度の移行がスタートしましたが、今のところ大きな混乱はないようです。しかし、今後対処すべきいくつかの課題があります。
 1つ目の課題は、これまでの(旧)眼科専門医の単位を必要数まで取得できなかった会員の把握と、その会員が2027年9月の更新時までに取得しなければいけない合計単位数の周知です。これについては現在事務局で確認中であり、本人に分かりやすく通知できる仕組みを作成しています。
 2つ目は共通講習です。共通講習とは、全科の専門医が受講しなければいけない講習であり、最低でも5年間で3つの講習(必修講習A:医療倫理、医療安全、感染対策)の受講が必要です。一方で、日本専門医機構の研修制度を修了して2022年以降に専門医の資格を取得した眼科医はさらに必修講習Bの5単位も受講する必要があります。これからこの受講方法を適切に通知しなければいけません。
 3つ目は、2027年問題です。5年後の2027年には約11,000人近い会員が新専門医の認定を受けることになります。この際には多くの会員に申請方法を正しく通知して、資格の審査を行う大変な作業が必要になります。そこで提出書類や審査方法をなるべくデジタル化し、迅速な審査ができるように準備を進めています。

 地域偏在の問題
 専門医制度の目標は「国民から信頼される専門的医療に熟達した医師を育成すること」であり、医師の地域偏在問題とは本来無関係のはずです。しかし近年では、厚生労働省から医師養成課程全体(専門医を含む)を通じて医師の地域偏在対策を行う方針が明確に示されています。その試みの一つとして2023年度から導入されたのが「特別地域連携プログラム」です。この制度では、シーリング対象地域であっても医師少数区域(医師の足下充足率が0.7以下の都道府県)の施設で12か月以上の研修を行うことで定員を加算できるという制度です。この制度を利用すれば、シーリング地域では定員を増やすことができますし、同時に医師が不足している地域に人材を派遣することが可能になります。
 眼科もこの特別地域連携プログラムに参加する方針です。しかし最近発表された特別地域連携プログラムの詳細では、派遣地域などに厳しい条件があることが示されました。このような条件の下で、果たして派遣施設と受け入れ施設のマッチングがうまく実現するかどうか、不安が残ります。

 そもそも、専門医を取ることのメリットは?
 専門医制度についての説明会で現場の眼科医から最も多い意見は、「専門医を持っていても、そのメリットが感じられない」というものです。確かに現時点では専門医でなければ行えない医療は限られていますし、専門医だからといって診療報酬が上がるわけでもありません。私が考える専門医のメリットは3つです。
 第一のメリットは「眼科医本人のスキルアップ」です。厳しい専門医試験に向けて勉強すること、また学会出席や学術・地域医療活動を行って専門医を維持することは、間違いなく眼科医としてのレベルアップに役立っていると思います。
 第二のメリットは「患者からの信頼」です。患者さんは私たちが思っている以上に主治医が「標準治療を熟知した眼科専門医」かどうかを気にしています。例えば日本眼科学会のWebサイトの中で一般の方からの閲覧数が最も多いのは、「目の病気について」に続いて「眼科専門医を探す」のコーナーです。つまり患者さんは、自分の主治医をネットで検索して、適切な教育を受けて標準的な医療が提供できる眼科専門医かどうかに関心を持っているのです。
 第三のメリットは「眼科の地位向上」です。今回の新専門医制度移行がうまくいけば、眼科は全基本領域の中で最も新専門医取得率の高い科の一つになる可能性があります。専門医が多い科であることは、国民や政府に日本の眼科医の結束力とレベルの高さを訴えるセールスポイントになり、医療制度において我々の方針を推進していく際の強みにもなると思います。
 上記のメリット以外にも、専門医の広告規制についても議論が進められていますし、将来は新専門医でなければ行えない眼科医療が増えていく可能性があります。そこで是非、自身のためだけでなく眼科全体のためにも多くの先生方に専門医の取得および維持をお願いできれば幸いです。

公益財団法人 日本眼科学会
常務理事 近藤 峰生