ガイドライン・答申

2026/06/10

Fuchs角膜内皮ジストロフィの診断基準および重症度分類New

厚生労働省難治性疾患政策研究事業前眼部難病の診療ガイドライン作成および普及・啓発の研究班

疾患概念

 Fuchs角膜内皮ジストロフィ(Fuchs endothelial corneal dystrophy:FECD)は、Descemet膜への細胞外マトリックスの異常沈着(滴状角膜)、Descemet膜の肥厚、その結果として生じる角膜内皮機能不全を特徴とする両眼性の角膜疾患である。滴状角膜は英語ではcorneal guttae、ラテン語ではcornea guttataと表記する。散乱や乱視の増加によりグレアや視力低下などの自覚症状を引き起こすと考えられている。進行すると、就寝中の閉瞼により角膜浮腫が悪化し、朝の視力低下として自覚されるようになる。さらに重症化すると、浮腫は角膜上皮へ波及し、眼痛を生じる。
 FECDは10代や20代で発症する早期発症タイプと、60~70代で発症する晩期発症タイプに分類される。早期発症タイプは角膜内皮細胞の基底膜構成成分であるCOL8A2遺伝子のミスセンス変異によって発症することが知られている。近年、晩期発症タイプのFECDの発症にTCF4遺伝子の第三イントロンにおけるCTGリピートの異常伸長が関与していることが報告されている。特に欧米の患者では80%程度にCTGリピート異常伸長がみられる。一方で、日本人患者では20%程度とされており、日本人FECD患者における原因遺伝子については不明の部分が多い。FECDは常染色体顕性の遺伝形式をとると考えられているが、晩期発症タイプでは60~70代で発症するため、親世代の調査が難しいことも多く、家族歴が不明な症例も多い。さらに、晩期発症タイプのFECD患者では、角膜の状態が悪化する60~70代で白内障を合併している症例が多く、視機能異常の原因が角膜と水晶体のどちらにあるかの鑑別が難しいことがある。
 角膜移植に関するGlobal surveyによると、FECDは角膜移植の原因の第一位であり、きわめて重要な角膜疾患といえる。有効な内科的治療法は存在せず、現時点で確立された治療として異常内皮細胞やDescemet膜を正常なドナー角膜に交換するDescemet膜角膜内皮移植術(Descemet membrane endothelial keratoplasty:DMEK)をはじめとした角膜移植が行われている。また、角膜移植以外の新しい治療法として培養角膜内皮細胞注入療法があげられる。

 我々は厚生労働省難治性疾患政策研究事業の前眼部難病の診療ガイドライン作成および普及・啓発の研究班において、FECDの診断基準および重症度分類についてシステマティックレビューを行った。結果として、国際的に明文化された診断基準はみつからず、重症度分類としてKrachmerもしくは修正 Krachmer gradingが広く用いられていた。このgradingは、細隙灯顕微鏡で確認される滴状角膜の数と分布、そして浮腫の有無に基づき、0を正常として、FECDを1~6の6段階の重症度に分類するものである。また、近年ではScheimpflugカメラや前眼部光干渉断層計(anterior segment optical coherence tomography:AS-OCT)といった新しい機器を用いた新たな重症度分類も提案されている。
 今回我々は厚生労働省難治性疾患政策研究事業の「前眼部難病の診療ガイドライン作成および普及・啓発の研究」班においてFuchs角膜内皮ジストロフィの診断基準および重症度分類を作成した。重症度分類については、将来的な指定難病の認定を見据えて、眼科領域の指定難病に共通の分類と、国際的に頻用される修正Krachmer分類を併記する形とした。

 

(日眼会誌 130 : 530-535, 2026)