眼科は眼球という小さな臓器を扱うので、狭い領域と思われるかもしれません。
しかし、眼科とは想像以上に広い領域をカバーする科です。それぞれの分野ごとに学会があり、分厚い教科書があり、毎月発行される雑誌があります。例えば神経内科の側面をもつ神経眼科、形成外科・美容外科の側面をもつ眼形成、小児科の側面をもつ小児眼科、リウマチ内科の側面をもつぶどう膜炎、オンゴロジーの側面をもつ眼腫瘍など挙げれば枚挙にいとまがありません。
眼は脳の出先器官といわれるほど非常に複雑な臓器なのです。
豊富な専門分野があり、眼科専門医取得後は自分の興味や適性に合わせて様々な分野のスペシャリストになることができます。
内科、外科を問わずどの科も魅力的であり、いろいろなことに挑戦したくて迷っている君!眼科医ならば、そんな君の欲求を必ず満たしてくれると思います。
そしてSubspecialityを極めて自分自身のアイデンティティーが高められること間違いなしです!
図 眼球の立体構造
眼瞼・形成
加齢やコンタクトレンズの使用によって起こる眼瞼下垂、小児や老人の眼瞼内反症、外傷や腫瘍切除による眼瞼欠損の形成など、まぶたにまつわる疾患の治療も眼科の重要な仕事になっています。また、高齢化などによって眼瞼下垂の治療の需要が大変多くなっています。
図 眼瞼と眼疾患
右眼瞼下垂
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右上眼瞼挙筋短縮術後
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涙道・涙液
涙は、眼表面の保湿による細胞保護、殺菌作用による感染防御、涙自体の屈折力と角膜表面平滑化によって目の光学機能を支える、など重要な役割を持っていて、枯れたり(ドライアイ)あふれたりする(流涙症)ととても不快で重篤な角結膜疾患の原因にもなります。近年、涙の需要と供給のバランスを担っている涙器、涙道に関する病気の病態理解と手術を含めた治療法がともに進化しています。そのため治療適応が広がり、専門とする先生のニーズが高まっています。
図 涙器、涙道の構造
図 ドライアイの病態
角膜
角膜は光を眼内へ取り込む窓であり、光を屈折させるレンズとしても働いています。角膜、結膜、涙液を一体のものとしてocular surface(眼表面)と捉えて診療が行われています。感染症、遺伝性疾患、免疫疾患、円錐角膜など、種々の原因から角膜が混濁し形が歪み視機能障害が起こります。近年の技術革新で角膜移植は層別の移植に進化し、角膜再生医療の発展により、従来治療不可能であった症例も視機能回復が可能になりつつあります。
図 様々な角膜疾患の前眼部写真
角膜顆粒状変性症
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円錐角膜
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真菌性角膜潰瘍
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角膜移植
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網膜硝子体
視機能にとって重要な組織である網膜硝子体の疾患は失明に直接関係し、そのうち網膜色素変性、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、変性近視は中途失明の主要な原因疾患文献1)です。この四半世紀に飛躍的に進歩した抗VEGF(血管内皮増殖因子)療法、レーザー治療、硝子体手術などの治療によって、多くの患者さんを救うことができる分野です。これまで治療法のなかった遺伝性疾患などの視細胞が傷んでしまう疾患に対しても、再生医療、遺伝子治療、人工網膜などの目覚ましい先進的研究の成果が着実に実を結び、いよいよ夢が現実になろうとしています。
図 網膜硝子体疾患に対する治療
治療前
抗VEGF療法後
硝子体手術
神経眼科
12ある脳神経のうち、視神経、動眼神経、滑車神経、外転神経の4つは眼だけに関係した神経です。私たちの眼が動くのは、中枢からでた指令が末梢神経を介し外眼筋に到達するからです。この経路のどの部位に障害が生じても眼球運動障害を来します。重症筋無力症など重篤な全身疾患の初期症状として眼科を受診することがあります。また、神経眼科における視力障害もまた、視覚路の障害で生じます。うっ血乳頭から脳腫瘍が発見されることもあります。視機能、眼球運動は脳外科や神経内科領域とも深く関連する分野です。眼科医の果たす役割が重要です。
図 眼球を動かす外眼筋の構造
図 視覚伝導路
屈折矯正
裸眼で遠くも近くもはっきり見える正視(せいし)の人は少なく、多くの方は、近視、遠視、乱視などの屈折異常や老視などの調節異常に伴い、的確な屈折矯正をしないと明瞭にものを見ることができません。正しい屈折矯正を行うことは、患者さんの視覚の質(quality of vision:QOV)の向上のみならず、矯正視力が不良な患者さんを同定しその原因を調べるうえでも大切です。日本人も含めアジア人に多い近視の研究も進み、角膜屈折矯正手術、プレミアム眼内レンズ(乱視や老眼治療効果など)、そのほかの近視治療もますます発展が期待される分野です。
白内障
加齢とともに発症する加齢白内障は、超高齢社会の到来とともに増加し、その手術件数は、年間150万件文献2)を超えています。白内障手術は高齢者の視機能を回復させるだけでなく、精神面でも改善させることが最近の研究から明らかになり文献3)、高齢者のQOLの維持・向上に欠かせない重要な分野です。
図 超音波で水晶体を吸い取っているイメージ
白内障手術
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眼内レンズを挿入しているところ
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成熟白内障
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眼内レンズ挿入眼
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緑内障
我が国の失明原因第1位文献1)の慢性疾患です。40歳以上人口の約5%文献4)という多数の患者さんがいます。失明の恐怖におびえる患者さんを、手術を含めた治療で生涯にわたって守っていきます。近年画像検査の発展によって診断技術や病態解明が最も著しい分野の一つです。日本人も活躍もあり薬物治療も進化し、最近、低侵襲緑内障手術(MIGS)と呼ばれる患者さんへの負担の少ない手術が開発されました。これらによってより多くの患者さんを直すことができる時代になっています。
図 房水循環のイメージ
浅前房
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前眼部OCT(光干渉断層計)
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弱視斜視
大人になってから発症した斜視では、複視を自覚しますが、小児期の斜視では斜視眼に抑制がかかるため複視は生じません。片方の眼の情報しか視覚中枢に到達しないため、小児期の高度な斜視では立体視が獲得できません。適切な治療を行うことにより立体視は獲得できます。一方、弱視は斜視や屈折異常のために視覚中枢に十分な視覚刺激が届かない場合に発症します。早期発見、早期治療が重要です。
図 斜視の種類
ロービジョンケア
世界保健機関(WHO)では眼鏡などを装用した矯正視力が0.05以上、0.3未満の状態をロービジョンと定義しています。眼科的治療が終了しても視力がロービジョンに留まる方への支援をどうするかは眼科医にとってきわめて重要な問題です。その方の現在の見え方の特徴を見極め、その個人の見え方に応じた補装具を選定する。いわば視覚のリハビリテーションを行うことがロービジョンへの取組みです。
図 拡大読書器などの視覚補助具
図 白杖
小児眼科
小児の眼は大人の眼を小さくしただけでなく、視機能の発達途上にあるという特徴があります。先天異常を伴う眼疾患、未熟児網膜症、網膜芽細胞腫といった小児特有の眼疾患を治療します。この分野は特に専門性の高さが要求されます。これから先の長い人生を見据えた治療が行われます。
図 小児の診察風景
診察風景
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NICUでの診察
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眼炎症
眼炎症の代表はアレルギー性結膜疾患とぶどう膜炎です。免疫研究の進歩とともに、免疫抑制点眼薬や生物学的製剤などの新薬が開発されました。その結果、多くの患者さんを失明から守ることができるようになりました。これからも新たな研究の展開が期待できる分野です。
図 様々な眼炎症疾患
ベーチェット病
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眼内炎
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眼腫瘍
眼科が扱う領域には、良性腫瘍だけでなく、網膜芽細胞腫や眼瞼脂腺癌、ぶどう膜悪性黒色腫、結膜悪性リンパ腫、眼内リンパ腫、IgG4関連眼疾患など、眼あるいは眼付属器に特有の悪性腫瘍が発生します。また、眼球周囲の軟部組織は悪性リンパ腫や横紋筋肉腫の好発部位です。これら眼腫瘍の治療は、解剖の知識、副作用と視機能についての考察、眼科手術のスキルなど眼科医の総合力が試される領域となります。
図 様々な眼腫瘍
ぶどう膜悪性黒色腫
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結膜リンパ腫
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文献
1)Morizane Y, et al. Incidence and causes of visual impairment in Japan: the first nation-wide complete enumeration survey of newly certified visually impaired individuals. Jpn J Ophthalmol 63: 26-33, 2019.
2)眼内レンズ出荷推移. 日本眼科医療機器協会 年次報告.
3)日本眼科医会研究班報告2006~2008年:日本における視覚障害の社会的コスト.日本の眼科 第80巻6号 付録,2009年
4)Iwase A, et al, Tajimi Study Group. Prevalence and causes of low vision and blindness in a Japanese adult population: the Tajimi Study. Ophthalmology 113: 1354-1362, 2006.
下記ページもご参照ください。