眼科領域のレーザー治療
レーザー光線は医療のみならず工業、通信や家電・娯楽など多くの分野で利用されている光線(電磁波)です。眼科分野では、他分野に先駆けて約50年前から使用されていて、現在では一般的な治療法となっています。レーザーもいろいろな種類があり、それによって使用する疾患も照射方法もさまざまです。一般に外来通院で治療でき、点眼麻酔で専用のレンズを目に当てて行います。そのほか、網膜硝子体疾患や白内障、角膜疾患あるいは屈折矯正手術では、術中にレーザーを使用する場合もあります。
代表的なレーザー治療(疾患別)
網膜疾患
網膜のレーザー治療(光凝固)に使われる主なレーザーは、網膜の血管や組織を凝固させるために使用される、532ナノメートル(nm)の波長を持つ固体状のグリーンレーザーが一般的ですが、病気の種類によっては、他の波長のレーザーが使用されることもあります。基本的には直径200マイクロメートル(μm)程度の小さな光を網膜などの眼の組織に当てて熱を発生させ、点状の凝固を作り出します。1発の照射は0.01~0.2秒程度とごく短時間なので、まったく痛みを感じないか、少しピリピリと感じることがある程度です。ただ、汎網膜光凝固術など何百~何千発も照射する場合は、時に鈍痛を感じることがあります。
網膜に孔が開き、それを通じて眼内液が網膜の裏側に回ると網膜剥離になります。網膜裂孔の段階か、周囲にわずかに網膜剥離ができたばかりの段階ならば、周囲をレーザー光凝固してあげることで、進行を食い止めることができる場合があります。また、網膜が薄くなって、裂孔が開きそうな部分に予防的に光凝固を行うこともあります。
新生血管が発生してくるのを予防したり、すでに発生している新生血管を退縮させたりする目的でレーザー治療を行います。増殖前糖尿病網膜症や増殖糖尿病網膜症、あるいは黄斑浮腫に対して効果があります。病状が進行している場合や血管新生緑内障が疑われる場合には、汎網膜光凝固術(網膜全領域に対するレーザー治療)を行います。
現在は硝子体内注射による治療が一般的ですが、それらの治療効果が乏しい場合に、光感受性物質を点滴しながらレーザーを照射して光化学反応を起こす光線力学的療法を行うことがあります。
網膜血管腫・網膜動脈瘤
異常血管に対して、直接照射することで、血管自体を凝固する目的で照射します。
レーザー光凝固治療風景
汎網膜光凝固術
開放隅角緑内障
開放隅角緑内障に対して選択的レーザー線維柱帯形成術(selective trabeculoplasty: SLT)を行うことがあります。線維柱帯形成術はYAGレーザーやアルゴンレーザーを線維柱帯に照射することで房水の流出抵抗を改善させて眼圧を下降させる手術です。眼圧下降効果は観血的手術に比べて決して高くはありませんが、繰り返し照射することができ、術後合併症も少ないことが特徴です。外来で施行することができ、術後の日常生活の制限もありません。
閉塞隅角緑内障
閉塞隅角緑内障では、レーザー周辺虹彩切開術を行うことがあります。レーザー周辺虹彩切開術は閉塞隅角眼の周辺部の虹彩にYAGレーザーやアルゴンレーザーを照射する手術です。閉塞隅角眼のなかには、瞳孔近くで虹彩と水晶体が接することで房水の通過障害が起こっているものがあります。レーザーで虹彩を切開することにより房水が流れるための新しいバイパスが作られ、眼圧が下降することが期待されます。ただし、術後に角膜内皮障害を生じることがあり、重篤な場合には角膜移植が必要になる可能性もあります。また、このような機序に対する治療としてレーザー周辺虹彩切開術は根治的ではなく、根治的療法として白内障手術により水晶体を眼内レンズに置き換えることで房水の通過障害を解除するほうが適切な場合もあります。
緑内障手術後
線維柱帯切除術などの緑内障手術では、術後に眼圧を調整する目的で、創口を止めている縫合糸を切ることがあります。この縫合糸は結膜下に埋まっており直接触って切ることができないので、アルゴンレーザーを用いて糸を溶かして外します。照射されている時間はきわめて短時間ですので、患者がレーザーによる痛みや熱を感じることはありません。糸は抜去せずそのまま結膜下に残りますが、異物感が出るなどの問題を生じることは通常ありません。
血管新生緑内障
血管新生緑内障では、その原疾患である増殖糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症などに対して汎網膜光凝固術が行われます。汎網膜光凝固術により新生血管の増殖が抑制されることで、血管新生緑内障の病態が改善することが期待されます。ただし、新生血管がすでに大量に認められる場合などでは、十分な汎網膜光凝固術を施行しても血管新生緑内障の眼圧管理につながらない場合があり、その際は追加治療が必要となります。
その他の緑内障に対するレーザー治療
観血的手術が困難な患者などに対して、ダイオードレーザーによる経強膜毛様体光凝固が行われることがあります。眼表面から毛様体にレーザーを連続的に照射すると、房水産生を抑制することで眼圧下降が期待できます。しかし眼痛が強く生じたり、眼球癆などの重篤な合併症を引き起こしたりする場合があるため、他の手術が困難な難治性緑内障に対する術式とされていました。
近年、マイクロパルス波によるレーザー治療が使用されるようになりました。ダイオードレーザーを断続的に毛様体に照射すると、ぶどう膜強膜流出路への流出が増加することで眼圧下降効果が得られると考えられています。日帰りで行うことが可能で、従来の連続照射に比べて痛みや合併症のリスクが低減されることから、より早期の症例にも適応が拡大しました。
レーザー周辺虹彩切開術
水晶体疾患
近年白内障手術では、手術の一部の過程(創口の作成、前嚢切開、水晶体核の分割)にフェムトセカンドレーザーを用いることがあります(レーザーのみで手術全体ができるわけではありません)。フェムトセカンドレーザー(femtosecond laser)は、非常に短いパルス幅を持つレーザーであり、そのパルス幅は数フェムト秒(1フェムト秒=10-15秒)程度です。この超短パルスの特性は、物質を非常に精密に加工するのに非常に有用です。
フェムトセカンドレーザーを用いた白内障手術の安全性や効果については、従来型と明らかな違いはありません。レーザーを用いた白内障治療は健康保険外(自費)です。
後発白内障に対しては、YAG(ヤグ)レーザーによる後嚢切開術を行います。YAGレーザーは、Yttrium-Aluminum-Garnet(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)の略称から来ています。これは、特定の波長範囲の光を発生する固体レーザー装置です。Nd:YAGレーザーは典型的に1.064マイクロメートル(μm)の波長を持ち、近赤外線領域に位置しています。このレーザーは、高出力を発生し、深部組織に光を届けることができるため、医療や産業のさまざまな用途に使用されています。YAGレーザーは衝撃波で、後発白内障で濁った薄い膜(後嚢)を破り、濁りを飛ばす治療を行います。治療時間は5分程度で、痛みはありませんのでご安心ください。
後発白内障切開術(術前・術後)
角膜疾患
角膜混濁(帯状角膜症や一部の角膜ジストロフィなど)
エキシマレーザーにより、角膜混濁を除去する手術(エキシマレーザー治療的角膜切除術)を行います。エキシマレーザーは、エキシマ(excimer)光を発生するレーザー装置です。エキシマレーザーは、紫外線領域に位置する特定の波長範囲の光を発生します。典型的なエキシマレーザーの波長は紫外線の波長であり、主に193ナノメートル(nm)で動作します。エキシマレーザーの特徴的な特性の1つは、短いパルス幅を持つことで、物質を精密に加工するのに理想的なレーザー光源で、眼科手術や微細加工などの分野で広く使用されています。
エキシマレーザー治療的角膜切除術では、角膜の表面を切除するため、術後数日は痛みがでることがあります。また視力の回復は緩やかで、安定するには3か月程度時間がかかります。
角膜移植
角膜移植術の際の一部の過程(主として角膜の切開と移植片の切開)にフェムトセカンドレーザーを用いることがあります。フェムトセカンドレーザーの特性については、上記のレーザー治療の白内障の項を参照してください。
屈折矯正手術(主として近視矯正手術)
眼鏡やコンタクトレンズを使わず、裸眼でピントがあうようにする手術を屈折矯正手術といいますが、そのうち、角膜の形状(表面のカーブ)を変えてピントがあうようにする手術を角膜屈折矯正手術といいます。
角膜屈折矯正手術には、エキシマレーザーやフェムトセカンドレーザーが使用されます。詳細は、LASIKやSMILEの項をご参照ください。
外眼部(眼瞼下垂、眼瞼余剰皮膚切除など)
外眼部、特に眼瞼の手術(眼瞼下垂、眼瞼余剰皮膚切除など)でCO2レーザー(炭酸ガスレーザー)が用いられることがあります。CO2レーザーは、波長10,600ナノメートル(nm)の遠赤外線で、水分に吸収され、レーザーメスとして切開に使用したり、出血を止めるために使用したりします。組織を瞬時に蒸散するため、使用の際は煙が出ます。
CO2レーザーの利点としては、電気メスより熱による障害が少なく、金属メスよりも切開時の出血が少ないことがあげられます。一方、切開時の出血を厭わなければ、金属メスの方がより繊細な切開線ができます。
CO2レーザーを使用するときは、眼球の角膜にあたらないようにするため、角膜保護シールド(眼球の表面を覆う保護板)が使用されます。
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