病名から調べる

網膜剥離

原因・病態

■はじめに

眼球はカメラに例えることができますが、網膜はカメラのフィルムに当たるものです。レンズに相当する角膜・水晶体から入った光がフィルムに相当する網膜に当たると網膜はそれを電気信号に変えて、視神経を介して脳に刺激を伝える結果、ものが見える、ということになるわけです。網膜剥離は網膜が何らかの原因により眼球壁側から剥離したことを指し、治療法、経過はその原因により異なります。 

■網膜の構造

前述のように網膜はものを見るための神経の膜です(図1)。網膜は10層の組織から構成されていて、最も深い部分を網膜色素上皮と呼びます。網膜剥離とは、何らかの原因で網膜が網膜色素上皮から剥がれてしまう状態のことです。ものを見る中心部分を黄斑(おうはん)と呼び、ここは光に対して最も敏感な部分です。


図1.眼球の立体構造

■網膜剥離の分類

(1)裂孔原性網膜剥離
 網膜剥離の中で最も多くみられるもので、網膜に孔(網膜裂孔・網膜円孔)が開いてしまい、目の中にある水(液化硝子体)がその孔を通って網膜の下に入り込むことで発生します(図2)。一般に、はじめのうちは剥離した網膜の範囲は小さく、時間とともにだんだんこの範囲が拡大するというような経過をたどりますが、孔が大きいと一気に進みます。剥離が進行すればすべての網膜が剥がれてしまいます。網膜に孔が開く原因として、老化・網膜の萎縮・外傷などがあります。剥がれた網膜は光の刺激を脳に伝えることができません。また、剥がれた網膜には栄養が十分行き渡らなくなるため、網膜剥離の状態が長く続くと徐々に網膜の働きが低下してしまいます。そうなると、たとえ手術によって網膜が元の位置に戻せたとしても、見え方の回復が悪いといった後遺症を残すことがあります。遠視・正視よりも近視、特に強度近視でより多くみられ、どの年齢でも網膜剥離になる可能性がありますが20代と50代の人に多いといわれています。


図2.裂孔原性網膜剥離のイメージ


上方の弁状裂孔による網膜剥離を認める。

(2)非裂孔原性網膜剥離
 牽引性網膜剥離と滲出性網膜剥離があります。裂孔原性網膜剥離と同様に網膜剥離が起きた状態ですが、原因、経過はさまざまであり裂孔原性網膜剥離とは大きく異なります。
 牽引性網膜剥離は眼内に形成された増殖膜あるいは硝子体などが網膜を牽引することにより網膜が剥離して起きます。重症の糖尿病網膜症などでみられます。
 滲出性網膜剥離は、網膜内あるいは網膜色素上皮側から何らかの原因で滲出液が溢れてきたために網膜が剥離してしまった状態です。ぶどう膜炎などでみられます。

■裂孔原性網膜剥離の症状

 網膜剥離の前駆症状として飛蚊症(小さなゴミのようなものが見える症状)や光視症(視界の中に閃光のようなものが見える症状)を自覚することがありますが、無症状のこともあります。病状が進んでくると視野欠損〔カーテンをかぶせられたように見えにくくなる症状(図3)〕や視力低下が起きます。網膜には痛覚がないので、痛みはありません。


図3.視野欠損のイメージ

■裂孔原性網膜剥離の検査

 瞳孔を大きくする目薬を点眼し、網膜が剥離しているかどうかを調べる眼底検査を行います。他にも超音波検査などを必要に応じて行います。

■裂孔原性網膜剥離の治療

 網膜裂孔・円孔だけであれば、レーザーによる網膜光凝固術あるいは網膜冷凍凝固術で網膜剥離への進行が抑えられることもあります。すでに網膜剥離が発生してしまった場合、多くは手術が必要となります。網膜剥離は治療せずに放置した場合、失明する可能性の高い病気です。
 手術は大きく分けて2つの方法があります。
 一つは目の外から網膜裂孔に相当する部分にあて物をあてて、さらに孔の周りに熱凝固や冷凍凝固を行って剥離した網膜を剥がれにくくし、必要があれば網膜の下に溜まった水を抜くというやり方です(図4)。必要に応じて、あて物を眼球に一部あてるだけでなく、眼球を輪状に縛ることもあります。剥がれた網膜を目の中から押さえつけるために、眼内に空気や特殊なガスを注入することがあり、この場合は手術後にうつぶせなどの体位制限を伴う安静が必要です。
 もう一つの方法は、目の中に細い手術器具を入れ、目の中から網膜剥離を治療する硝子体手術という方法です(図5)。この方法では、剥がれた網膜を押さえるために、ほぼ全例で目の中に空気や特殊なガスあるいはシリコーンオイルを入れます。この方法においても手術後にうつぶせなどの体位制限が必要となります。


図4


図5

 

 

■裂孔原性網膜剥離の予後

 手術療法によって多くの網膜剥離は復位させることができますが、一度の手術で網膜が復位しないために、複数回の手術を必要とすることもあります。また、重症例は増殖性硝子体網膜症と呼ばれ、剥離した網膜上に増殖膜が形成された状態で難治であり、最大限に手を尽くしても、残念ながら失明してしまう場合もあります。
 網膜剥離の重症度にもよりますが、手術療法では1回の手術につき1~3週間の入院を要することが一般的です。日常生活や運動などが始められるようになるまでの時期に関しては個々のケースで異なるため、医師によく状況を聞くなど、医師とよく相談する必要があります。
 術後の視力に関しては、もともと黄斑が剥がれていない場合には手術前と同程度にまで回復する場合もありますが、黄斑が剥がれてしまっていた場合には、もとどおりの視力に戻ることは難しくなってしまいます。網膜剥離が発生から間もない状態であり、剥がれている範囲も小さい場合は、手術も比較的簡単で見え方ももとどおりに回復する可能性が高いといえます。飛蚊症や光視症のような症状を自覚した場合には、早めに眼科医の診察を受けることが大切です。