なぜ眼科を選んだか?

なぜ眼科を選んだか

先輩たちはなぜ眼科を選んだのでしょうか。
クリニックや市中病院ですべての患者さんに一次医療を提供している眼科医、各分野のスペシャリストとして活躍している眼科医、都心部からへき地まで全国の眼科医の「なぜ眼科を選んだか」を紹介します。
診療科の選択、そして将来の自分を想像する際の参考にしてください。

兵庫医科大学眼科 荒木敬士先生

白内障は日本では手術で治りますが、世界の失明原因としては第1位となっている疾患です。貧困や社会的状況により手術ができない人々が多いのが実情で、そういった地域で無償の白内障手術を行う海外医療支援活動をアイキャンプと呼びます。
もともとアジアが好きで、アイキャンプに参加したいと思ったのが眼科医を目指すきっかけになりました。今ではアイキャンプを行うNGOのAOCA(アジア眼科医療協力会)の一員として毎年インドで活動させていただいております。現地スタッフと協力して朝から晩まで一緒に活動することで絆が生まれます。また、患者さんとのコミュニケーションも言葉は違いますが、身振り、手振りで感謝の気持ちがダイレクトに伝わってくるのがわかります。日本での診療とは一味違った医療の原点に触れることができるため、やりがいとなっています。

同志社大学生命医科学部 小泉範子先生

眼科を選んだ理由は、学生時代の恩師との出会いです。私の母校では、新しく着任された教授を全学年の女子学生で歓迎する学生主宰の会(通称・女子コンパ)がありました。女性医師への期待や、医師のキャリア形成についてなど、教授を取り囲んで次々と質問する元気な学生たちに、“世界トップレベルの眼科医療を実現したい。そのために女性医師の活躍は必須。Be International!”と熱く語られる姿を見て、進路に迷っていた5年生の私は眼科に進むことを決意しました。
私は現在、生命科学系の大学研究室で大学院生たちと角膜疾患の研究を行いながら、母校の大学病院で診療を行っています。眼科医療は目覚ましい進歩を遂げていますが、いまだに原因不明の難病や、手術以外に治療法のない疾患が数多くあります。臨床医として目の前の患者さんを治療するだけでなく、研究や教育を通じて未来の医療を創造することができる眼科医の仕事は、人生をかけて取り組む価値のある尊い仕事だと感じています。


留学先のケルン大学眼科研究室にて(2003年)


新しい角膜疾患治療の研究に取り組む学生たちと(2018年)

国立成育医療研究センター眼科 仁科幸子先生

医学部卒業後の進路を決めるとき、当時は、社会に出ると女性であることがハンデイキャップのように感じられました。女性医師として一生働いていくためにはどの科を選べばよいのか、大いに悩みました。そんな中、決め手となったのは、ごく単純な子どもの頃の初心でした。図書館で手に取った“アグラへの道”という本、妹の目を治したい一心で、遠くまで旅をした勇敢な兄のお話です。インドの女医さんが最後に兄妹の願いを叶えました。眼科医として人の役に立ちたいと思ったきっかけでした。
今私は眼科医として小児病院で働いています。物語のように上手くいくことばかりではありませんが、本当に充実した毎日です。発達途上で感受性の高い子どもの目は、疾患によって容易に弱視になりますが、一方、少しの手助けで予想以上に良くなることも多く、子どもの成長をみることができることは医師冥利に尽きます。眼科にはこのような分野もあります。あなたも、子どもの目と未来を育む眼科医になりませんか?

理化学研究所上級研究員 仲泊 聡先生

10代で、ニューロンと意識の関連に興味を持ち、心理学を学びました。20代の初めに、自らが命の危険に晒されたのを契機に、同級生から5年遅れで医学部を目指しました。神経増殖因子の生化学実験で眼科に興味を持ち、30代で、視覚の実体を知りたくて、脳科学と視覚障害学の二足のわらじを履きました。40代に、視覚障害をもつ友人をたくさん得ました。そして、彼らの不便と不安に対する自分の認識が間違っているということに気づきました。50代で、その気づきを他の眼科医にも伝えなければと思いました。それとともに、視覚障害を取り巻く関連職種の方たちとの接点からその歴史を知りました。そして、気が付いたら今の場所にいました。

図は、脳科学に偏っていますが、私の大事な2枚です。
一つは、後頭葉外側部梗塞で変形視を生じた患者の見た当時の私の顔です。
もう一つは、fMRIを使ってカタカナのイの字を見ながら撮った脳画像から文字を再現したときの最初の一枚で、恩師の北原健二先生が日眼総会の特別講演で採用したものです。日本眼科学会雑誌 111: 160-191, 2007に載っています。

東京医科大学眼科 禰津直弘先生

私の経歴は少々入り組んでおり、初期研修医終了後に1年ほど他大学の形成外科に入局していました。形成外科の手術は好きでしたが、自分としては、診察、診断、薬剤治療〜手術と最初から最後まで一貫して自分でみたかったこともあり転科を考えました。
眼科は角膜、水晶体、網膜、神経など様々な領域があり、内科から外科的側面と幅広いです。眼瞼下垂や腫瘍、涙道疾患、眼窩底骨折など形成外科と重複している疾患も多々あり、形成外科的な手技と似ています。
視覚というのは五感のひとつですが、人は情報の8割以上を視覚から得ていると言われQOLに直結するものです。体の中でも、こんなに小さな臓器がとても重要な役割を担い、それを診れるのは眼科医しかいません。
小さな臓器ですが、その世界は想像できないほど奥深く、面白い科です。少しでも眼科に興味を持っている方は、是非眼科を生涯の職業として考えてみてください。

東京都・男性・50代

私が眼科を選んだ理由は、医学部生のときに眼科疾患で治療を受けたことや、研修医時代に眼科領域の患者会の立ち上げを手伝う機会があり、目は小さな臓器であっても、日常生活を何気なく送るために、なくてはならない役目を果たしていることを再認識したからです。また、内科的治療と外科的治療のいずれも小児から成人まで移植医療も含めて幅広く実施できる、さらに臨床と研究を両立しやすいといったことも大きなポイントでした。
私達の時代は初期研修のときからどの科を専攻するか決める必要がありましたので、最初に眼科を選択してしまうと、全身管理のやり方などをOJTで学ぶチャンスがありませんでしたが、今の研修制度ではそのようなことは気にしなくてよくなったと想像しています。さらに、結果論ですが眼科医を選んでも、その後色々な道(開業だけでなく、行政機関に勤務したり起業したりするなど)を選択しやすいことも魅力だと思います。