眼科専門医に対する処分の考え方

平成22年3月5日

日本眼科学会会員 各位

専門医制度委員会
委員長 小椋祐一郎

眼科専門医に対する処分の考え方について

 専門医制度委員会において、眼科専門医に対する処分の審議を行うに当たっての基本的考え方を取りまとめました。
 今後はこの考え方を基本として、慎重に審議を行っていくこととしましたので、ご報告いたします。


-眼科専門医に対する処分について-

1.はじめに
財団法人日本眼科学会では眼科の知識と技能が規定の水準に達した眼科医を専門医として認定している。平成14年からは医師の専門性の広告が認められ、眼科でも専門医の広告が可能となった。医療は十分な修練を積み、医学に関する高度の知識と技能を持った医師が医の倫理に基づいて行うものだが、専門医を称する医師は一般の医師と比べ、その責務が重いものと考える。
日本眼科学会専門医制度規則第14条に規定する資格喪失の処分については、専門医としてふさわしくない行為があった場合に、専門医制度委員会と理事会の議を経て、理事長が資格を喪失させるものである。専門医の処分については、迅速かつ適切な対応を旨とし、拙速な処分とならないよう、十分に審議して公正な判断を事案別に行うべきである。
しかしながら、委員会として基本的な考え方を公表し、その考え方に沿って審議することは、公正な処分を行うための一助になると考える。近年は医師の資質や医療安全に関する国民の関心が高まっており、ごく一部とは言え専門医が世間を騒がしたことは事実であり、そのために他の会員が被った被害は甚大である。このことを委員会として重く受け止め、国民の専門医に対する信頼を損なうことがないよう、具体的な処分方法等について検討した。

2.専門医の処分事由
専門医の処分は拙速な処分を避けることはもちろんだが、公正に行われなければならず、事実関係の把握に努め、専門医としてふさわしくない行為と判断された場合のみ、情状、その事案の重大性、その時点の医療水準や予見可能性、専門医に求められる品性や資質、国民や他の会員に与える影響、司法処分の量刑、行政処分の程度等を十分に考慮して決定する必要がある。 
医師は医療の中心を担い、国民の生命、身体を預かる立場にあるため、業務上か否かを問わず、医療過誤のように当然負うべき医師としての義務を果たしていない場合、殺人罪、傷害罪、わいせつ罪のように他人の生命、身体、人権を不正に侵害した場合、診療報酬不正請求や贈収賄罪のように自己の利益を不正に追求した場合、窃盗罪、住居侵入罪のように不正に他人の財産や住居を侵害した場合、専門医単位の不正取得や虚偽の申告等、専門医の品位を著しく損なう行為を行った場合は当然処分の対象になる。

3.処分の程度
処分の程度については、日本眼科学会専門医制度規則第14条に規定されているのは資格の喪失のみであるが、諸事情を勘案して、資格の喪失に至らない場合でもある程度の処分を課すことが必要と考える。
一般に考え得る処分としては、
(1)資格の喪失
文字通り資格を失うことで、最も重い処分。司法処分や行政処分の程度を考慮し、情状、事案の重大性、その時点での医療水準や予見可能性、専門医としての資質、国民や他の会員に与える影響等を勘案して適用する。

(2)資格の停止
停止期間中は専門医の名称を使用することを禁じ、有資格者としても扱わない処分。停止期間については、司法処分や行政処分の程度を考慮し、情状、事案の重大性、その時点での医療水準や予見可能性、専門医としての資質、国民や他の会員に与える影響等を勘案して適用する。
なお、停止期間中に資格休止制度を利用できるかどうかは個別審議となる。

(3)指導または勧告
文書や口頭でその行為を戒め、再発を防ぐ。または、自主的な資格の返上や名称の使用を自粛させる。資格の喪失、停止を行うには至らなくとも、司法処分や行政処分の程度、情状、事案の重大性、その時点での医療水準や予見可能性、専門医としての資質、国民や他の会員に与える影響等を考慮して適用する。
が主なものと思われる。また、すでに取得した単位を削除するなどの処分も考えられる。(2)、(3)の処分を課す場合には、委員会と常務理事会の議決を経ることは当然だが、規則にないというだけで、これらの処分を課せない理由にはならないと考える。

4.処分の決定手続
処分の決定については、「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」(医道審議会医道分科会 平成14年12月13日)に準ずることになると考えるが、強制的に調査する権限のない本会が正確な事実関係の把握を行うことは困難な場合が多い。一部の報道のみを根拠に処分を課すことは公正な処分とは言い難く、司法処分や行政処分の内容を参考としつつ、処分事由該当事実や情状事実の有無について事実認定し、処分を決定するのが現状で考え得る最も適切な方法であろう。また、罪状や量刑が同じで一見同じような事案でも、それぞれの情状により個別に審議した結果、処分の程度が異なることも考えられる。
なお、自由標榜性をとる我が国で専門医の名称は、医師の専門性を表わす有効な手段のひとつで、国民にとっても受診する際の判断の目安となっていることから、国民や他の会員への影響を考え、司法や行政の判断を待たずに処分の対象とすることもあり得る。その際は、本人から事情を聴取して弁明の機会を付与する等、より一層の事実関係把握に努め、法治国家としての原則を順守しつつ、慎重に審議しなければならない。


5.位置付けと再教育
この考え方は、医師の裁量権や眼科学の健全な発展を阻害するものであってはならない。例えば、その行為を行った時点での医療水準に照らして、注意義務違反等がなく医師と患者が合意した最善の利益に向かって努力した結果が、望まれたものではなかったという理由で処分を課すことはしない。また、処分によって専門医の資格を喪失した医師が専門医の再認定を受けることを拒否するものでもない。更生した医師の再出発を妨げるようなことはせず、日本眼科学会専門医制度規則第8条に該当すれば、専門医の再認定を受けることは可能とする。再認定を受ける際の最大の困難は専門医認定試験に合格することであろう。自身の専門領域のみならず、眼科全般の知識や技能、医師としての倫理観等を再構築しなければ、筆記試験、口頭試問を経て合格することは難しい。
しかしながら、一度資格喪失の処分を受けた医師への再教育という意味でも、この程度の困難は乗り越えるべきものと考える。被処分者への再教育は国民が安心して安全な医療を受ける上で重要な意味を持つと考えられ、日本眼科学会専門医制度規則第15条の適用は軽々しく行われてはならない。

6.おわりに
今後、委員会で専門医の処分を決定するに当たっては、この考え方を基本とし、専門医としての品性、適性等を勘案して審議することとする。 また、被処分者の氏名、住所、勤務先および処分理由等の一般への公表については、国民の知る権利と医師の個人情報の保護との兼ね合い、公表方法や公表期間等について、一朝一夕で結論がでるものではなく、今後とも検討していく必要がある。
なお、この考え方は永久不変のものではなく、今後の社会情勢、国民感情等により変化していくものであり、適時、委員会で審議して見直しを行うことが望ましい。