ガイドライン・答申

2026/07/10

膠様滴状角膜ジストロフィの診療ガイドライン

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業
「前眼部難病の診療ガイドライン作成および普及・啓発の研究」研究班

緒 言

 膠様滴状角膜ジストロフィ(gelatinous drop-like dystrophy:GDLD)は常染色体潜性遺伝形式の遺伝性角膜ジストロフィで、10代に角膜上皮下にアミロイドが沈着し、両眼性に著しい視力低下を来す疾患である。Tumor associated calcium transducer 2(TACSTD2)が原因遺伝子として同定され、この遺伝子の機能喪失型変異によってタイトジャンクションの形成不全が生じるため、涙液中のラクトフェリンが角膜内に侵入しアミロイドを形成すると考えられている。治療には混濁の範囲に応じてエキシマレーザーによる治療的レーザー角膜切除術(phototherapeutic keratectomy:PTK)、角膜移植術(表層、深部層状、全層)などが行われるが、本疾患は再発率が高い。数年で再発するため、若年時から一生にわたる経過観察が必要であり、予後不良な疾患の一つである。再発する角膜混濁に加えて、繰り返す角膜移植による合併症や緑内障により失明に至る場合も多い。
 本疾患は、難病の患者に対する医療などに関する法律(難病法)に基づき指定難病に定められており、「角膜難病の標準的診断法および治療法の確立を目指した調査研究」研究班において、診断基準および重症度分類を作成してきた。今回我々は、膠様滴状角膜ジストロフィ患者の診療をより高いレベルで行うことを目的としてMedical Information Network Distribution Service(Minds)形式に沿った診療ガイドラインを作成した。Mindsとは厚生労働省の委託を受けて公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する事業である。
 Mindsによると診療ガイドラインは「健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義されている。本研究班では、膠様滴状角膜ジストロフィの診療上の重要臨床課題について、専門家の意見を集約した“authority-based”の方法論ではなく、“evidence-based”のガイドライン作成を目指した。すなわち、エビデンスを系統的な方法、システマティックレビューの形で収集し、採用されたエビデンスを総体として評価してまとめ、それに基づいて重要臨床課題に対する推奨をまとめたものである。
 本診療ガイドラインにおいては、診療上重要と考えられる3つのクリニカルクエスチョン、3つのバックグラウンドクエスチョンについてエビデンスをまとめ、その推奨を作成した。膠様滴状角膜変性のような希少疾患においてはランダム化比較試験などのエビデンスの高い研究が行われておらず、いずれのクリニカルクエスチョンおよびバックグラウンドクエスチョンについても強い推奨をまとめることはできなかった。このため厳密な意味での整合性や明瞭性の面には議論となる部分が残っているが、診療ガイドラインの本来の目的が「教科書のような体系的知識や決まりごとを示すのが目的ではなく、あくまで診療の手助けになること」であることを考慮した結果とご理解いただければ幸甚である。

 

(日眼会誌 130 : 599-618, 2026)