ガイドライン・答申

2026/08/10

眼瞼けいれん診療ガイドライン第3版(2026)New

眼瞼けいれんガイドライン改訂委員会

緒 言

 Ⅰ 作成の目的と手順
 厚生労働省に委託された「公益財団法人日本医療機能評価機構Minds」では、以下のように定義された文書を「診療ガイドライン」と呼び、各領域に作成し、適宜更新することを推奨している。
「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビュー(SR)とその相対評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」

 この定義によるガイドラインは、従来のように医師だけに情報が占有される形ではなく、患者当事者にも生じる疑問を想定してclinical question(CQ)を作成し、それに対してエビデンスに基づく回答を行い、かつそのエビデンスレベルを評価して明示する形をとる。

 日本神経眼科学会では眼瞼けいれん診療ガイドライン第1版を2011年に作成、発表したが、これは専ら医師向けへのガイドラインを示した、いわば入門書的な内容であった。

 それから10年余りの間に本症に対する認識の広がりや、研究の進歩に伴い、多くの国内外の成果、科学的エビデンスが生まれている。それを十分参酌し、上記のように時代の流れに伴ってガイドラインの立ち位置や、作成法が提唱されているので、これを参考に前記のように、本学会内に「眼瞼けいれん診療ガイドライン改訂委員会」が設置された。Minds診療ガイドライン自体も改訂されているが、本ガイドラインでは主として2014年、一部その後の改訂も踏まえて、ガイドライン作成委員会、それに対してSRを行うSR委員が同学会より選出され、執筆、討議を繰り返しながら2022年にガイドライン作成委員会からの最終原稿が脱稿された。SR委員会は、CQがすべて揃ったところ、および最終原稿が脱稿されたところで介入し、疑問点について改訂、修正を行った。

 
 Ⅱ CQ回答にあたっての引用文献の抽出基準

 本来ガイドライン作成においての引用文献はエビデンスレベルの強いものを中心として選択すべきである。しかしながら、「眼瞼けいれん」の領域においては、ボツリヌス治療に限れば、ランダム化比較試験やSRなどエビデンスレベルの高い研究が存在するが、CQのほとんどを占めるその他の質問分野では、そうした研究はないか、ほとんどないのが実情である。

 それは眼瞼けいれんという疾患の特性と考えられる。疾患を持つ当事者が、視覚を利用しての生活に著しい不都合を有し、患者数も決して少なくないことが推定されるので、診療ガイドラインを作成すべき要件は十分揃ってはいる。しかし、本症は眼科、神経眼科からみれば学問としては小さな領域に過ぎず、一方、関連する神経科学分野からみた場合は、視覚障害ではなく運動系の障害と位置づけられる。このことから、本症自体が診療科間の谷間に入り込みやすい。このために、国際的にも専門家が少なく、大規模な研究はしにくく、結果としてRCTやSRがほとんど行われないままとなっている。

 このように、「眼瞼けいれん」では、臨床的重要度とは別の理由により、十分な量と質の研究が得にくい実情がある。したがって、本ガイドラインにおける各CQの回答作成にあたっては引用論文に一定のツールを用いたエビデンスの強さを決める、ないしは引用研究のレイティングは省略した。代わりに、各CQの執筆担当者には、専門家の立場での「抽出基準」で文献を検索、引用することを委任した。各責任執筆者は数少ない過去の研究の中でも、現時点でより高レベルの研究成果を取り上げ、引用しつつ執筆している。なお、その執筆責任を明らかにするために、本ガイドラインに限っては各CQごとに回答者の執筆者名を明示した。


 Ⅲ 各CQの回答における推奨の強さ、エビデンスの強さ

 本ガイドラインに先行して関連疾患である「ジストニア診療ガイドライン2018」(南江堂)が日本神経学会により出版されたので、作成された各CQについてこれに準じたレイティングを行った。

 なお、CQによっては、推奨、エビデンスのレイティングが馴染まないものもあるが、できるだけ評価をすることを目指した。先行研究については、一般的に研究方法によって格付けされているエビデンスレベルを参考にするのはもちろんであるが、バイアスリスク、非直接性、非一貫性、不精確、出版バイアスなども考慮するため、複数の論文、成果をまとめ直して相対評価することを目指し、CQごとに以下の要領でレイティングの合意形成を行った(対面会議2回、リモート会議3回)。

  1. 1)各CQの責任者が回答の内容、それに用いた研究論文の選択について説明。
  2. 2)以上について質疑応答が行われる。
  3. 3)責任著者が下表に示す推奨の強さ(2段階)、およびエビデンスの強さ(4段階)を組み合わせたレイティングを提案。例)2A
  4. 4)全委員から再度質疑応答が行われ、原則全員一致でのレイティングとした。
  5. 5)全委員が一致しない場合は、推奨の強さ、エビデンスの強さの一方または両方を提案より一段階下げることを委員長が提案し、合意形成したものがある。
  6. 6)SR委員会は、レイティングを含めて意見を述べ、差し戻すことができるが、同委員会からのレイティングに関する疑義はなかった。
  7. 7)なお、レイティング以外に表現に関しても若干の議論があった。特に眼瞼手術の成果に関しては委員によってその評価に比較的大きな差異がみられた。CQ26、51、52の記載がそれにあたる。レイティングはいずれも2Cとあるように、評価を決定づける研究は存在しないが、それでも委員の臨床的経験などから隔たりがあった。表現を無理に統一させてしまうことは妥当な科学的姿勢とはいえないことから、責任著者の表現をそのまま掲載することで全委員のコンセンサスを得ている。

【推奨の強さ
 1:強く推奨する
 2:弱く推奨する

エビデンスの強さ
 A(強):効果(成果)に強く確信が持てる
 B(中):効果(成果)に中等度の確信が持てる
 C(弱):効果(成果)に対する確信は限定的である
 D(とても弱い):効果(成果)にほとんど確信が持てない

令和7年12月1日(改訂)
眼瞼けいれん診療ガイドライン改訂委員長
井上眼科病院
若倉 雅登

(日眼会誌 130 : 683-739, 2026)