ガイドライン・答申

2021/08/10

アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第3版)

日本眼科アレルギー学会診療ガイドライン作成委員会

アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインの読み方

 アレルギー性結膜疾患診療ガイドラインの改訂版を、今回ここにお届けしたいと思います。
 旧版の2版の公開は2010年であり作成の主体は、日本眼科アレルギー学会の前身である日本眼科アレルギー研究会でした。この10年の間に、診療ガイドラインのありかたも大きな変化を遂げてまいりました。
 現在、診療ガイドラインは、科学的根拠に基づき、系統的な手法により作成された推奨を含む文章であり、医療者と患者を支援する目的を持つと定義されます。しかし、論文やエビデンスが十分でない場合も多く、これらをまとめることは容易ではありません。また、アレルギー疾患においても、治療法は日進月歩であり、新たな治療薬も出てきます。
 本ガイドラインの作成は、理事、評議員、および作成委員会のメンバーの合議に基づき、アレルギー性結膜疾患の診療において、最も重要度の高い医療行為を選択することからはじめました。次に、過去の論文を対象にエビデンスのシステマティックレビュー(SR)を行いました。これに基づきその総体評価、益と害のバランスなどを考慮して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を、厳格な合意のもと作成しました(Minds診療ガイドライン作成の手引き2014)。
 つまり、本文書は、アレルギー性結膜疾患の治療に関して、過去の文献や報告に基づき、しっかりそれらの知見を統合したうえで、エビデンスの確実性を含め、その根拠とともに提示し、そのメリットとデメリットを明確に記述するものです。これにより、医療者と患者の医療行為における意思決定を能動的に行うことを支援します。
 推奨は、エビデンスレベルの強い文献や報告に基づき作成しました。エビデンスレベルの強い論文とは、一般に無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)によるものです。医学分野の最初のRCTは、1948年の結核に対するストレプトマイシン治療に関する論文とされます。
 それ以来、長きにわたって、さまざまなレベルや質のRCTが混在していました。1996年になり、RCTで遵守するべき内容として、Consolidated Standards of Reporting Trials(CONSORT)Statementが宣言され、以後のRCTの質が担保されるようになりました
 しかし、RCTは万能ではありません。特に、施行するうえでの労力とコストは問題となります。また、まれな副作用リスクの検証などはRCTが苦手とします。具体的には、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の使用における感染症併発リスクが該当します

 RCTを補うものとして、観察研究も重要なエビデンスを提供します。いろいろなバイアスが入りやすいのが欠点ですが、観察研究でなければなし得ない研究もあります。また、観察研究であっても1,000人以上になるような規模の研究であれば,結果から得られる推定値はかなり確からしいといえます。
 
つまり、推奨を作成するために用いる研究は、RCTであれ、観察研究であれ、長所と欠点をともに公平に評価することが肝要です。この推奨作成のために時間をかけて議論を繰り返してきました。その結果、本ガイドラインは、アレルギー性結膜疾患の治療面の現時点での俯瞰を示すことができたと思います。
 
本ガイドラインにおいて、旧版の記載に準じる総説はスコープの章にまとめています。将来的には、その内容は、クリニカルクエスチョン(CQ)で検証する形に変わっていくと思います。そこで質の高い研究を企画し、遂行していく必要も生じます。これは、医療者だけでは困難であり、社会的な協力や一般の方々の理解も必要です。
 
旧版公開から現在に至る間において、特にアレルギー性結膜疾患の治療法には、大きな変化がありました。世界に先立ち、本邦における免疫抑制点眼薬の登場は画期的でした。免疫抑制点眼薬は、重症のアレルギー性結膜疾患である春季カタルの治療法を革新的に変えました。
 
また、眼のアレルギーには、具体的にどれだけの数の患者さんがかかっているのでしょうか。こうした情報は、有病率として計算されます。特に地域別のみならず年次別の変化を理解することは医療行政上も重要です。周知のように日本における季節性アレルギー性結膜炎は世界の中でも非常に高い数値を示します。しかし、最後に眼科医が主導でアレルギー性結膜疾患の全国疫学研究を行って以来、20年近くも経ちました。また、春季カタルといった重症な眼のアレルギーでお困りの方がどれだけおられるのかも不明でした。
 
そこで、日本眼科アレルギー学会発足に伴い、学会主導で、全国的なアレルギー性結膜疾患の有病率調査を行いました。これによりこれまで詳細が不明であった重症アレルギー疾患の有病率や地域分布を明らかにし、総説に盛り込むことができました。
 
総説の改訂とともに、本ガイドラインでは、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の使い方を中心にCQを作成し、現時点におけるエビデンスを整理し推奨文を作成しました。CQに取り上げた以外の治療法や予防法は、総説に取り上げています。これらに関しては、今後のエビデンスのさらなる集積を待ち、CQとして次回改訂の課題としたいと考えております。
 
本ガイドラインが、アレルギー性結膜疾患に悩む患者さん、診療に携わる医師やコメディカルの皆様の一助になれば望外の喜びと考えております。

(日眼会誌125:741-785,2021)