このたび、日本眼科学会の理事を拝命いたしました蕪城俊克です。理事会メンバーとしての責務の重さに身の引き締まる思いであるとともに、本学会の発展と我が国の眼科医療の質の向上に微力ながら貢献できるよう努めてまいりたいと考えております。どうぞよろしくお願い申し上げます。なお、私は外部理事として選任されております。これは公益財団法人のガバナンス強化の一環として制度化されたもので、過去10年間に当該法人および子法人の常務執行理事・使用人でなかった者を外部理事として選任することが求められています。これまで日本眼科学会の運営に直接深く関わってこなかった立場から、新たな視点での意見や提案ができればと考えております。
私は本年4月まで、診療ガイドライン委員会の委員として、各専門学会から提出される診療ガイドラインの審査に携わっておりました。本委員会では、新たに作成された診療ガイドラインについて内容の確認を行い、必要に応じて修正すべき点や疑問点を指摘する役割を担っています。近年、地域や施設による医療格差の是正や、エビデンスに基づく医療の実践を目的として診療ガイドラインの整備が進められており、眼科領域においても多くのガイドラインが作成されています。
一方で、ガイドラインの意義については改めて整理しておく必要があると感じています。Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020においては、ガイドラインは「医療利用者と提供者の意思決定を支援するための文書」と定義されており、医師のみならず患者も含めた意思決定を支えるものと位置づけられています。しかし実臨床では、ガイドラインが「そのとおりに行うべきもの」として受け取られている面も少なくありません。特に医療訴訟においてはガイドラインの記載がしばしば引用され、「標準医療の根拠」として扱われることがあるとの指摘もあります。しかし、本来ガイドラインは診療の最終判断を決めるものではなく、現時点で妥当と考えられる標準的な考え方や選択肢を示したものです。実際の診療では、個々の患者の背景や病態、さらには本人や家族の意向を踏まえた柔軟な判断が求められます。このようなガイドラインの位置づけについて、改めて共有しておくことが重要であると感じています。
さて、本年4月に日本眼炎症学会より「ぶどう膜炎診療ガイドライン 第2版」が発刊されました。本ガイドラインは、2019年に発刊された初版を全面的に見直し、新たな疾患概念の追加や最近の知見、特に画像検査や薬剤選択に関する記載の充実を図ったものです。また、初診時の診断および治療方針決定を支援するフローチャートを整備するとともに、実臨床で頻繁に直面する疑問点についてクリニカルクエスチョン(clinical question:CQ)を設定し、文献的エビデンスと専門家の合意形成に基づく推奨文を提示しています。
ぶどう膜炎のような希少かつ多様性の高い疾患においては、大規模臨床研究に基づく高いエビデンスを得ることが必ずしも容易ではなく、診療は専門家の経験や判断に依存せざるを得ない側面があります。そのため本ガイドラインでは、推奨文に対する同意度を1~9点の9段階で併記し、推奨の背景にある不確実性や専門家間の見解の幅を可視化する工夫がなされています。
近年、眼科関連の診療ガイドラインだけでも年間4~7件程度が新たに公開されており、いずれも日本眼科学会のホームページから閲覧可能となっています。これらに目を通すことは、眼科診療の最新動向を把握するうえで有用である一方、希少疾患や高度に専門的な内容も多く、すべてを通読することは容易ではありません。今回のぶどう膜炎診療ガイドライン第2版も130ページを超える分量となっています。そのため、本ガイドラインは最初から通読するものというよりも、日常診療の中で疑問が生じた際に必要な箇所を参照する「道しるべ」として活用していただくことが現実的であり、有用であると考えています。
診療ガイドラインは「よりよい意思決定を行うための支援ツール」です。その本来の位置づけを踏まえ、適切に活用されることによって、その価値が最大限に発揮されます。今後もガイドラインの整備と適切な活用が進み、我が国の眼科医療のさらなる質の向上につながることを期待しております。