理事会から

2026/09/10

ダイバーシティが拓く眼科の未来New

 日本眼科学会(以下、日眼)のダイバーシティ推進委員会の長を仰せつかって3年、これまでとこれからについて書いてみたいと思います。

 結婚や子育てを機に、女性医師がキャリアを途切れさせてしまっている現状は、眼科だけの問題ではありません。前回2023年に開催された日本医学会総会でも、各学会における女性医師・研究者のキャリア継続への課題と対策が、シンポジウムのテーマとして取り上げられました。日眼からは、ダイバーシティ推進委員会が発足し活動を始めたことを報告したのですが、基礎医学を含め他科学会はもっと早くから、女性医師支援に積極的に取り組んできていることを知り、愕然としました。眼科は女性医師の割合が高い診療科であるにもかかわらず、これまで日眼としてのアクションは起こしてこなかったことを思い知らされました。

 もちろん眼科全体では、日本眼科医会を中心として女性医師支援が議論され、現場では出産子育て時の配慮や復職支援が行われてきました。日眼がやるべきことは、研修開始から専門医を取得するまでの初期のキャリア形成や、アカデミアの中核を担う中期~後期の人材育成において、男女の差なくステップアップできるよう、研修・教育・研究機関の先生方とともにサポートしていくことです。

 女性医師が出産や育児、家族の介護といったライフイベントを経験する時期は、ちょうど大学や研究機関で教育者・研究者として飛躍する時期と重なります。その結果、優れた能力と意欲を持ちながら、研究から距離を置かざるを得ない医師や、アカデミアを離れることを選ぶ医師が存在します。これは日本の眼科にとって、大きな損失です。

 ダイバーシティ推進委員会では、大学や各眼科関連部会にアンケートを行ったり、提言をしたりしながら、当事者ならびに上司の意識改革を図ろうとしてきました。アンケート結果からは、男性医師と比較して女性医師のほうが学位の取得・手術執刀の機会・学会発表や論文執筆数が少ないこと、そして女性医師がキャリア継続するにあたってのロールモデルが少ないことが分かりました。日眼を含め各専門学会の理事などの執行部においても、理事の女性比率が少ないことが明らかでした。ダイバーシティ推進委員会からの働きかけによる変化の一つに、日眼総会や日本臨床眼科学会でのシンポジストや座長を女性医師が担う比率が増えていることがあげられます。また各学会の執行部ではクオータ制を導入して、女性理事比率を上げる動きが浸透しつつあります。

 このような動きに対して、男性医師の機会を奪うのではないか、女性という枠でゲタをはかせてもらっているのではないかというネガティブな声も聞きます。ただ最近は、育児や介護を担う男性医師も増え、多様な価値観やライフスタイルを尊重する社会へと変化しています。だからこそ、「ダイバーシティ推進」とは単に女性を支援することではなく、一人ひとりが人生のさまざまな局面に応じて能力を発揮し続けられる環境をつくることだと考えます。「女性医師」支援ではなく、「育児・介護・病気などのライフイベントを経験している医師」を支える制度にすべきなのです。

 アカデミアには、多様な人材が集まり、新しい発想が生まれる土壌があります。わくわくするような楽しみが多い一方、研究や教育にかかるディスカッションなどはボランティアとみなされがちです。眼科は計画して行える診療が多く、デジタル化との親和性も高いことを強みとして、チーム制やリモート診療を導入しフレキシブルな勤務体制を整えることで、より専門性を高めたり、研究に当てたりできる時間を確保していきたいものです。何より経済的インセンティブを含めた制度設計が、生涯アカデミアで活躍していくためには必要です。

 男女問わず誰もがモチベーションを持ち続け、自分のしたい仕事に注力できるよう、ダイバーシティ推進委員会では引き続き対策を練っていきたいと思います。

公益財団法人日本眼科学会
理事 五味  文