2020/08/10

Webによる日眼総会

 新型コロナウイルス感染(COVID-19)は、世界を一変させています。治療法やワクチンなどの予防手段の決め手がない現状では、隔離対策から生活様式の留意まで、感染状況によって国や地域ごとにその対応を判断しています。我が国では、2月中旬、「ダイヤモンド・プリンセス号」寄港の頃から他人事ではなくなり、3月には国内の感染者増加と海外の流行爆発などをみながら、正解のない課題を決定しなくてはならない多くの場面に遭遇しています。一方、こういうときだからこそ、平時の見方を変えて、仕事や社会活動の方法を見直す機会にもなっています。

 日眼も日眼医と協力して、COVID-19対策委員会を立ち上げて、様々な対応をしてきていることを4月号の本欄で外園理事が報告されています。

 日眼対応の中でも3月上旬の日眼総会開催可否の決断は切迫事項でした。COVID-19感染波及の行方が不確かで、総会開始まで2か月を切っていた時期でした。総会は、日眼の最大行事であり、3年前に総会長が選出され、日時、場所などが決定し、特別講演、招待講演、評議員会指名講演の演者も選考されます。そして、眼科研究に従事する医師・研究者は本総会を目指して演題を応募し、プログラム委員会のメンバーは強行日程の中で査読やプログラム内容の吟味を行います。総会長および主催校は総会を無事に施行できるように環境を整備します。眼科関連企業は多くのセミナーを共催し、盛会になるように支援します。最近の本総会の予算規模は1億数千万円に上っています。今回の第124回日眼総会は、東京医大の後藤 浩総会長と東邦大の堀 裕一プログラム委員長のもとで、4月16~19日に東京国際フォーラムでの開催に向けて準備されてきました。COVID-19による社会の急変容のもとで、それまで多くの方々が準備してきたほとんどの内容の変更を余儀なくされたのです。本会の開催について、政府の学術集会開催の指針などが出る前に、後藤会長をはじめ寺崎浩子理事長の至急案件として各理事に提示され、3月6日からネットを利用して各理事間で熱のこもった討論が行われました。可能な限り、学術集会に準備してきた演者の発表機会を設けることを念頭に、中止や延期ではなく、通常開催とせずともできうるアカデミックな発表の場を模索しました。無観客講演、選択プログラムのみの講演とビデオ撮影などからWebでのスライド供覧のみまで想定して、感染状況を推測しながら発表形式を議論しました。その際、開催のための収支予算は重要であり、念頭におかれました。日眼関連学会で、この規模でのWeb開催の経験はありませんでした。3月上旬時点では、感染状況もまだそれほど深刻ではありませんでしたが、医学に関わる日眼総会として、最悪の事態を想定し感染予防を優先して、全プログラムをWeb開催に決定したことは、適切な選択であったと個人的には感じています。最終的には、総会長や理事長の英断で全面Web開催が決定しました。明治30年に第1回総会が河本重次郎会長のもと開催されてから、昭和19~21年の戦時中の中止以外、開催危機に関しての最大の決断ではなかったでしょうか。参加の皆様には発表方法の変更などでご迷惑をおかけしましたが、約1万1千人が登録されたと伺い、会員や関係者の皆様のご協力に感謝いたします。

 実際に今回のWeb総会を経験して、Web活用のメリットを認識する機会になったと感じた方も多かったのではないでしょうか。例えば、音声が入っている講演などを、自分のペースで何回も繰り返し見直すことができました。同時刻に行われる講演スライドなども見て勉強のチャンスを拡げられます。一方、音声のないスライドは分かりにくいし、一般講演での質問はできませんでした。質問も署名付きで意見を記載して演者へのフィードバックを可能にするなど、改善できる事項もいろいろと見つかったと思います。今回の経験を生かして、通常学会でもWeb閲覧併用の可能性の検討なども行っていいのではないでしょうか。そして、学術集会や日眼のホームページで講演内容を閲覧できれば、学会の教育活動にも貢献できると思います。AAOのホームページでは教育講演の一部を閲覧することができます。そのためには個人情報守秘や著作権侵害予防などの規制強化やWeb掲載用の査読方法などの整備も求められるでしょう。

 現在はwith COVID-19の暮らし方を模索していて、学生講義や他の学術集会もWeb利用で工夫しています。専門医点数付与の仕方を検討したり、海外の学会も参考にして、将来のpost COVID-19に向けて、今回の総会を、学術集会の発表形式改善の契機にしてみてもいいように思います。

公益財団法人 日本眼科学会
理事 平形 明人