2020/06/10

「Withコロナ」の時代

 この原稿を書いている2020年4月にはCOVID-19に対する緊急事態宣言が出され、理化学研究所も大学も封鎖され在宅勤務命令が出るという未曾有の状態となっております。診療現場では少ない資源で自分たちの身を守りながら異常事態に対応するための緊張の日々が続いています。一刻も早くワクチンなど治療法が開発されることを期待しますが、それまでまずは医療崩壊を最小限に抑えて、それでも「withコロナ」の長期戦を余儀なくされると考える必要があります。

 一方で、真に必要なもの、各国の弱点、リーダーシップなどがはっきりと見えてくる状態となりました。新しい枠組みができて、もう過去と同じ世界には戻れない気配がします。医療で注目されているのはオンライン診療などITを駆使したり、ドライブインPCR検査などの新しい医療の形です。これまでの準備が整っていたところはいち早く対応してスムースに動き出していますが、例えば日本はオンライン診療の法律はあるものの一挙に利用できているという状態ではありませんでした。

 昨年から内閣府の規制改革推進委員会の医療、介護ワーキンググループに入り、どうして新しい仕組みが動かないのかというチェックをしております。そこで分かってくるのは、オンライン診療にしてもスイッチOTC薬にしても法律はかなり以前に推進する方向に成立しているのに、現場では進まない、その原因の一つに医師が変化を抑制しているという事実が見えてきます。

 今回、COVID-19をきっかけにオンライン診療が時限付きで初診にも認められました。それまで法律はあっても対象疾患が極々限られ条件が厳しく浸透率は数%で発展することがありませんでしたが、厚生労働省の当初の反対を押し切って、時限で初診から可能となりました。常に新しいことをする場合に起こるのはエビデンスがないという議論で、オンライン診療でもその声が多くありますが、やってみないことにはどこが悪くどう改善すべきなのかが見えません。日本はこれまでもゼロリスク病に囚われて世界の一線から取り残されていっています。

 もちろんそれぞれに賛否両論あることと思います。しかし、iPhoneによって仕事や生活があっという間に様変わりしたことを考えるとGoogle、Appleが医療に参入してくる今後10年で医療もかなりの変革が予想されます。日本眼科学会では他分野に比べても早くからAIに注目し、研究が進められております。「理事会から」でも何度かAIに言及されていますし、若い眼科医たちが起業するなど頑張っています。が、今後変化は一層加速するものと思います。

 医療費を削減しなくてはいけないのは、日本での治療や検査開発が遅々として進まなかったために医療費の大きな割合が海外に流出しているからです。これもゼロリスク病の弊害です。日本の企業が利益を得て税収に反映されるなら成長産業として、その際に病院や医療そのものにもお金が還元する方法を考えることが必要で、そうすれば医療費の増加はより良い医療や成長産業を作るための費用とみることができます。

 ここで「日本は規制が厳しいから」と思われた方は過去の思考回路に縛られていないか要注意です。PMDAでの治療開発の規制はかなり緩和されて承認速度はここ10年でFDAに並び世界最速となっています。ドラッグラグは解消されているのです。このように法律や規制の改革の方が早く、現場の思い込みの方が変わらないという現象がいたるところで起こって日本の進化を阻止しています。ぜひ、省庁のホームページや法律など一次情報に当たってください。

 先のワーキンググループでは、オンライン診療に関していつまでにこのような状態にしていくという中長期の戦略が厚生労働省にないことが浮き彫りになりました。それで、適応となる疾患や条件を一つ一つ検討していて遅々として進まない。日本の医療を守るために丁寧に検討しているのですが、維持するというだけではどんどん遅れていってしまう時代なのです。GAFA時代の医療に日本はどう対応するのか、独自に開発できる仕組みはないのか。そして、それに対応する眼科とはどのようなものか。学会の役割も大きく、オンライン情報共有ソフトでは学会が声をあげた脳疾患では保険点数が認められ、ほぼ同じ仕様で使える循環器疾患は学会からの声がないので何も進みません。眼科は率先して将来につながる医療を作れる学会であることを期待します。

 「Withコロナ」の時代を変革のチャンスと捉え、旧弊を脱して若い人たちにこの国の眼科医療の中長期戦略をデザインしてもらいたいと切に思います。

公益財団法人 日本眼科学会
理事 高橋 政代