2021/05/10

日本眼科学会理事長を拝命して

はじめに
 本年4月から寺﨑浩子前理事長の後任として、公益財団法人日本眼科学会(日眼)の理事長に就任いたしました。2017年~2019年にも理事長を務めさせていただいておりますので、2期目の拝命となります。会員数1万5千人を超える大きな組織の舵取りを再び担うのは身に余る重責ですが、幸いにも有能な常務理事に恵まれましたので、その助けを借りながら職務を全うさせていただく所存です。常務理事会の陣容は、西田幸二庶務理事、平形明人会計理事、外園千恵編集理事、杉山和久渉外理事、堀 裕一保険理事、辻川明孝記録理事、近藤峰生専門医制度理事となっています。

2年前の課題と現在の課題
 前回の任期中に大きな課題となっていたことは、眼科研修医の確保、眼科医の適正数検討、眼科の地位向上、国際化、診療報酬改定対策などでした。そのうちのいくつかは通奏低音として現在に至っていますが、やはり2年経つと状況も変化しています。

眼科医数
 主な変化の一つが、眼科医数に関する認識の変化です。新医師臨床研修制度が施行されて以来、眼科入局者が全国的に大きく減少しました。これに危機感を覚えて日眼が開始したのが、眼科医リクルート事業です。初期研修医(1、2年目)と医学生(5、6年生)に眼科の魅力を伝える目的で、2012年~2017年にサマーキャンプを、2018年と2019年にはスプリングキャンプを開催しました。一人でも多くの研修医の確保をと、まさに、数の追求の時代でした。
 2020年以降、この事業が行われなくなったのは、新専門医制度の開始による環境の変化と、専門医登録における都会へのシーリング制導入のためです。単純に眼科医の数を増やすという目標設定は過去のものとなり、如何に人材の質を確保するかという方向に舵を切ることになりました。具体的な方策は今年からですが、いずれにせよ、“たくさん入局して万歳”といった感覚は、令和時代には通用しないものとなりました。
 少ない頭数で同等の仕事をこなすためには、生産性を上げる必要があり、そのために欠かせないツールが、効率的な連携と、人工知能(artificial intelligence:AI)です。情報のデジタル化が進んだ眼科はビッグデータ・AIと親和性が高く、この分野では医学の中で先頭グループを走っています。医学領域で初めての専門学会である日本眼科AI学会も設立されました。日眼として、今後大いに注力していく予定です。

新型コロナウイルス感染症と学術集会
 本欄でも何人かの理事の方が書いておられましたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延は、学術集会のあり方を大きく変えました。昨年は日本眼科学会総会(日眼総会)、日本臨床眼科学会をはじめ、大小ほとんどの学術集会がオンライン開催となってしまいました。年末になって日本網膜硝子体学会と日本眼科AI学会がかろうじてハイブリッド開催となり、人数を絞っての現地開催と、オンライン開催の組み合わせとなりました。
 オンライン開催の形態としては、ライブ配信とオンデマンド配信があります。いずれも遠方の会場まで出向かなくて済むというメリットがありますが、オンデマンド配信はさらに、自分の好きな時間と場所で聴講することができるという、大きなアドバンテージがあります。この便利さにいったん慣れてしまうと、これまでの現地開催オンリーという学会形態に戻ることはできないでしょう。本年は、ハイブリッド学会元年ということになりそうです。日眼としては、この状況に応じた専門医生涯教育認定のあり方など、対応していく必要があります。

日本の眼科の国際化と地位向上
 日眼の国際的なプレゼンス向上、そして日本の眼科の国際化については、言うは易く行うは難しいものがあります。海外留学を希望する若手が減っているのはなにも眼科に限ったことではなく、医学界全体でもそうであり、さらに日本の学生・若手全体に共通する現象となっています。社会構造全体に通底するこの状況を打破するのは、如何に眼科だけで頑張っても、容易なことではありません。と、ここまでは私が4年前に書いた文章と全く同じ内容です。問題は変わっていません。
 努力は続けられています。今年は、角膜(Asia Cornea Society Biennial Scientific Meeting)と緑内障(World Glaucoma Congress)の2つのメジャーな国際学会が日本で開催されます。開催形態は残念ながらE-congressとなってしまいましたが、逆に参加のハードルが下がることにより、より多くの外国の方々に聴講していただけるのではないかと思います。日本の眼科の実力を発揮する良い機会です。
 日眼総会におけるInternational Symposiumはすでに定着しました。オンデマンド聴講であれば、英語での演題を繰り返して聴いたり、興味ある演題だけかいつまんで聴いたりすることが可能になります。新たな学会形態のメリットを最大限に生かしていきたいものです。

診療報酬をめぐって
 尽きることのない課題です。日眼と日本眼科医会はタッグを組んで、2年ごとの改定に全力で臨んでいます。
 昨年、多焦点眼内レンズが先進医療から選定療養へと移行しました。選定療養とは、患者のアメニティ向上を目的に設けられた制度で、差額ベッド代や歯科診療等が対象となっており、これまで医療分野で選定療養として認められたものはありませんでした。今回、多焦点眼内レンズが医療技術として初めて選定療養の対象となったことは、医療全体にとって大きな意味を持ちますし、特に眼科においては技術料と材料費の分離という意味で、きわめてエポックメイキングなことであります。
 水晶体再建術に眼内レンズの材料費が包括されていることの矛盾は、これまで繰り返し議論されてきました。今回、一部とはいえ材料費が保険点数と分離されたことは、より良い眼科保険診療のあり方に結びつく第一歩と言えるかもしれません。

おわりに
 現在、大阪での日眼総会会期中、宿泊ホテルにおいて本稿を執筆しています。新型コロナウイルス感染症も少し落ち着いてきたことから、ハイブリッド学会となった日眼総会ですが、開始数日前から大阪を中心にコロナ禍が再燃し、主な会議の多くがオンラインになってしまいました。学会場の大阪まで来ているのに、会議はホテルの部屋でコンピュータの画面を見ながら、という何だか倒錯した世界です。この後、学会のあり方、社会のあり方、国のあり方はどうなっていくのでしょう。少々のことでは驚かない耐性と心づもりができました。New normalと呼ばれる世界とじっくり付き合っていきたいと思います。

公益財団法人 日本眼科学会
理事長 大鹿 哲郎