2021/08/10

学会誌で未来を創る

 本年4月より常務理事を拝命し、相原 一先生より編集理事を引き継がせていただきました。「日本眼科学会雑誌(日眼会誌)」の編集委員長、「Japanese Journal of Ophthalmology(JJO)」のAssociate Editorを務めます。よろしくお願い申し上げます。
 日本眼科学会の設立が明治30年(1897年)、その年に日眼会誌第1巻が発行され、2021年に第125巻を迎えています。ちなみに現在、日本内科学会雑誌が第110巻、日本外科学会雑誌は第122巻であり、日本小児科学会雑誌が日眼会誌と同じく第125巻を発行しています。明治に西洋医学が導入されるなか、専門性の高い眼科が早い時期に学会を自主設立し、母国語による学会誌を発行したと思うと誇らしい気がします。
 一方で今、本会を挙げて国際化に取り組んでいます。国際的な学術誌で論文を発表してこそ、世界中の人に研究成果を知ってもらうことができます。日本の研究を世界へ、その目的のためにJJOが刊行されたと澤 充JJO編集委員長より伺いました。今年はVol.65を発行しているので、戦後の混乱がおさまり「これから」という希望に満ちた時期にJJOが刊行されたことが分かります。
 英文論文にはImpact Factor(IF)があり、一般にIFが高い雑誌ほど、レベルが高く、論文の採択も狭き門です。和文論文は海外の研究者に引用されず、IFがついていません。このため英文論文が優れており、IFのない和文論文は劣るように思われがちですが、私自身はそうではないと考えています。学術論文は社会に役立ってこそ意味があり、一概にIFでは評価できません(最近はIFではなく、個々の論文のCitation Indexによる評価が重視されることもあります)。和文論文は日本人が容易に読むことができ、情報を広く共有できるという利点を有します。症例報告も和文だと広く日本の先生方に知っていただくことができます。英文、和文のどちらか、ではなく、どちらも推進することで研究成果の活用に広がりが出てきます。例えば国内多施設で作成した診療ガイドラインを日眼会誌に掲載することで、診断が容易になったり、治療方針を決めやすくなります。またガイドラインに基づいて診断の精度が向上すれば、前向き臨床研究を行って国際誌で発表する、といった方向も考えられます。
 この数年は、よく分からない英文誌が増えてきており、ハゲタカジャーナルと呼ばれる雑誌もあります(ハゲタカジャーナルとは、著者から論文投稿料を得ることのみを目的とした、低品質かつ悪質なジャーナルのことで、引っかからないように気を付けてください)。発行される論文数そのものが年々増加しており、文献検索すると、あまりに多くの論文がヒットして、その中から意義ある論文を見つけ出すことが、以前よりもずっと難しくなっていると感じます。また、一流とされる海外の学術誌でも、本当にしっかり読んだのかなと思う査読コメントをもらうこともあります。しかし伝統ある日眼会誌とJJOはいずれも、査読者が執筆者に寄り添い、論文をさらに良くするために責任をもってコメントしています。内容は複数の査読者で吟味しています。査読はボランティアですが、温かく指導的な査読が多いことも日眼会誌、JJOの特徴かもしれません。ぜひ多くの方に頑張って投稿していただき、読んでいただきたいと思います。またJJOにはForefront reviewがあり、これまでの一連のライフワークをまとめて発表、紹介するといった活用もご検討ください。
 両誌をどのように創っていくか、は学会の未来に密接に関わります。優れた学会誌は、著者(研究者)を育て、有益な研究成果を知らしめ、新たな研究につながっていきます。新米の編集理事として、これまでの先輩方の後を受けて、しっかりと学会誌という畑を耕し、多くの素晴らしい論文(実り)を出していきたいと思っております。仕事の中には、眼に見えて残る仕事、眼に見えないが残る仕事、眼に見えたが残らない仕事がありますが、日眼会誌やJJOに掲載される論文は見える仕事です。やがて50年、100年と年月が経ったときに、良い仕事だと評価される、後に残る論文を発行していきたいと考えております。

公益財団法人 日本眼科学会
常務理事 外園 千恵