理事会から

2022/03/10

社会の変革、自己の変革、学会の変革:
変化の速さを伝えるシステムは適応と進化を促す

 この原稿を書いている今(2022年正月)、オミクロン株による感染者が急増し不穏な雰囲気が明らかに再燃しています。第6波の到来は確実なものと感じられます。コロナ禍は社会に大きな変革をもたらしましたが、我々眼科医に卑近な例としては本コーナーでもたびたび挙げられている学会・研究会のバーチャル(オンライン)開催があります。リアル(オンサイト)開催のような臨場感こそ欠けるかもしれませんが、数々の利点からバーチャル開催は大きな支持を集めました。
 バーチャル会議はそもそも学会だけでなく一般企業の会合も含め社会に深く浸透しました。これは必要に迫られて自然発生的、同時多発的に成し得た社会変革であって、コロナ禍という激変に社会レベルで適応した証といえます。ここで特筆すべき点はそのスピード感であり、これはインターネットという方法論・システムが社会で共有されていたことに依存しています。誰か大きな権力者が音頭をとって日本中のすべての会議はバーチャルでやりなさい、と命令したわけではなく、コロナ禍という環境変化により促進されました。
 さて、このように変化に適応したことで社会全体が進化しました。適応できなければ人々の話し合いは停止し、人間社会そのものが崩壊していたことでしょう。環境の変化に適応すると生物は進化します。コロナ禍という淘汰圧の中で、バーチャル開催という武器を身につけたことは進化になぞらえるに値する自発的な適応と生存戦略だったといえるでしょう。
 近年の眼科学における長足の進歩(診断機器、治療薬、手術法など枚挙に暇がない)に、我々眼科医は自己のレベルでも適応と進化を遂げていると思います。忙しくて診療の水準をキャッチアップするのに精一杯だと嘆いていらっしゃる先生方こそ適応と進化の最中にあります。診療の内容を現状維持するだけでは、相対的な退化を意味するからです。著者が入局した頃は黄斑円孔の手術法もなく、加齢黄斑変性の治療薬もなかったことを思うと、隔世の感があります。目まぐるしく進歩する診療レベルを維持することは、長いスパンで見ると大きな進化を意味します。
 診療水準のキャッチアップとは専門知識・情報の共有であり、これを支えるのは教育システムであることは言うまでもありません。昔のような分厚い成書1冊では刻々と変化する学問にはついていけず、サブスペシャルティーに特化した参考書や講演会などでこまめに新しい情報を取り入れることが求められます。新専門医制度については、本誌の昨年12号に近藤峰生常務理事が詳細を書かれていますが、専門医資格の取得時のみならず更新時にさえ筆記テスト(eテストも含めて)の導入が検討されているようです。進化のためとはいえ大変な時代の流れを感じますが、専門知識という情報はいったんリリースされれば、学会として会員に共有してもらう方法論・システムが存在していることが重要です。極端な話、利用するかしないか(進化するか退化するか)を会員に委ねればいいからです。
 さて、教育システムの目的は学問の情報を伝達・共有することのみでよいのでしょうか? 教育する側は眼科専門研修基幹施設(ほとんどが大学病院)に入った専攻医と専門医取得後の若手を教育するわけですが、このシステムの持続可能性の前提には優秀な教育者の集団(複数のリーダーたち)が常に補充・刷新されることが条件です。しかしながら昨今の若手・中堅医師の大学病院離れの傾向を鑑みると、教育する側とされる側のバランスは近未来においてさえ不変であるはずがありません。日本眼科学会が絶滅危惧種とならぬためにも、教育する側(リーダーたち)は、される側を魅力的な教育者(する側)の集団へと育成する新たな教育システムを構築する必要があると感じています。
 これまでのリーダー教育は教室単位の個々独自の指導で賄ってきましたが、近年の国内外からの大きな淘汰圧(大学病院離れ、諸外国と比較して相対的な学術レベル低下、結果として国際学会における政治的地位低下など)を考慮すると、学閥抜きオールジャパンのリーダー教育システムの構築が今こそ必要かと思います。教育する側(リーダーたち)も進化しなければいけません。このシステムの開拓こそが淘汰圧に対する進化の一環となり得ると期待する一方、情報(リーダー教育の方法論)は決して独占・寡占されてはいけないし、若手がフリーアクセスして情報共有を随時可能にするのがよいと思います。このような在り方は奇しくもコロナ禍が加速してくれた恩恵ともいえます。稿を終えるにあたって、2022年の米国眼科学会(American Academy of Ophthalmology:AAO)のリーダー育成プログラム(Leadership Development Program:LDP)にノミネートされた学会を以下に列記します。各州の地方学会や各分野の専門学会から選抜された若手代表者(未来のリーダーたち)が参加し、全国の会員に開かれたシステムであることが伺えます。AAOの底力を垣間見た気がします。

Participants in AAO LDP XXIII, Class of 2022 Nominating Society
 Alabama Academy of Ophthalmology
 American Association for Pediatric Ophthalmology and Strabismus
 Arkansas Ophthalmological Society
 Association for Research in Vision and Ophthalmology
 Association of University Professors of Ophthalmology
 Cornea Society
 Eye and Contact Lens Association
 Georgia Society of Ophthalmology
 Illinois Society of Eye Physicians and Surgeons
 Kansas Society of Eye Physicians and Surgeons
 Macula Society
 Middle East Africa Council of Ophthalmology/Jordanian Ophthalmological Society
 Minnesota Academy of Ophthalmology
 National Medical Association, Ophthalmology Section
 Oregon Academy of Ophthalmology
 Pennsylvania Academy of Ophthalmology
 Retina Society
 Society of Military Ophthalmologists
 Texas Ophthalmological Association
 Wisconsin Academy of Ophthalmology

公益財団法人 日本眼科学会
理事 石田  晋