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World Baseball Classic(WBC)優勝 本稿執筆時はちょうど、野球の世界大会であるWBCにおいて侍ジャパンが優勝し、大変な盛り上がりをみせた後です。準決勝、決勝と劇的な試合であったり、最後はマイク・トラウトと大谷翔平の2大スーパースター対決で締めくくられたりして、否が応でも話題を集める展開でした。野球の素晴らしさを改めて教えてくれたとともに、日本人としてこれだけ誇りに思える結末はありえない、まさに映画のようなストーリーでした。 加えて昨年は、サッカーのワールドカップでも日本代表の活躍が世界を驚かせましたし、ボクシングの井上尚弥がパウンド・フォー・パウンドで世界1位になったりと、スポーツ分野での日本人の活躍が目に付きました。喜ばしい限りです。 日本の国力 さあれども、私が最も思いを馳せたのが、スポーツにおける国力と、科学における国力の落差です。日本人は元々、体力より知力で勝負、運動より頭脳が取り柄、と考えられてきました。その勤勉さと相まって、日本は一貫して科学技術立国を国是としてきたところです。 ところが近年、その基盤が揺らいでいます。工業技術ではアジア諸国の後塵を拝し、貿易赤字に陥っています。半導体などかつてはお家芸としていた基幹技術も、他国に負け続けています。 技術力で日本の国力低下が著しいのに対して、スポーツの分野で国際的な活躍が目立っているのは、果たして喜ぶべきことなのか、悲嘆すべきことなのか・・・ 科学技術 医学をはじめとする科学研究でも、論文数は減り、学位取得者は減り、海外への留学者は減り、国際学会での発表数も減っています。 文部科学省の科学技術・学術政策研究所が昨年発表した「科学技術指標2022」によると、日本の論文数は前回(2008~2010年)から1つ順位を下げて5位。論文数自体は増えているものの、世界各国の論文数が急増していることから、日本のシェアは10年前の8.9%から、3.9%に激減しました。 注目度の高い論文を示す「Top 1%補正論文数」では、年を追うごとに順位が下がり、4位→7位→10位となっています。「Top 10%補正論文数」では12位と、すでにランク外に陥落しています。 ちなみに世界野球ランキングでは、日本男子は2019年以来、首位を独走していますし、女子も世界1位です。 研究者の人材に関しては、博士課程の入学者は2003年度をピークに長期的に減少傾向にあり、博士号取得者も日本は1.5万人と、米国の9.2万人や中国の6.6万人に大差をつけられており、人材の確保が急務です。 日本眼科学会とアジア太平洋眼科学会 今回、日本眼科学会理事長として、3期目を担当させていただくことになりました。と同時に(タイミングは偶然なのですが)、アジア太平洋眼科学会(Asia-Pacific Academy of Ophthalmology:APAO)のPresident-Electに選出されました。次期Presidentということになります。 日本の眼科の世界における地位は、残念ながら低下の一途を辿っています。アジアの盟主の地位も、すでに他国に明け渡したといってよいでしょう。これになんとか歯止めをかけたい、日本の先生方に海外に目を向けてもらいたい、そして、日本の眼科が国際的に注目され尊敬される存在となって欲しい、というのが私の願いです。 そのために、日本眼科学会理事長として、またAPAO Presidentとして、できうる限りのことをするつもりです。手始めに、APAO Annual Meetingの日本への招致を進めていこうと思います。 幸い、上記の思いに強く賛同してくださる若い先生方がたくさんおられます。皆様の力をお借りして、日本の眼科を何とか盛り上げていきたいと考えています。2年間、よろしくお願いします。
公益財団法人 日本眼科学会 理事長 大鹿 哲郎
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