2023/08/10

理事会から

 2023年の4月から、日本眼科学会雑誌とJapanese Journal of Ophthalmology(JJO)の編集に関するお仕事に携わる機会をいただき、大変光栄に存じます。微力ではございますが、これまでの多くの先輩方が築き上げた信頼を大切に、編集活動にあたらせていただきます。編集活動は、研究活動の時間の確保に始まり、執筆・投稿まで学会員の先生方のご協力なくしては成り立ちません。是非、皆様のご指導をいただきたくよろしくお願いいたします。
 2023年4月(第127巻4号)の「理事会から」において、前編集担当の外園千恵理事から「医学論文とオープンアクセス」というタイトルで編集に関する詳しいご報告がありました。是非ご覧いただければと思います。その中で、最近の話題として、JJOのオープンアクセス化に向けて、大きく舵が切られたとご報告いただいております。 JJOが日本眼科学会会員の皆様にとって、国際的に発信できる魅力ある学術誌であるよう、取り組んでいると締めくくられております。私も、4月から活動に加わったばかりではございますが、これまで、査読の先生方や事務局の方の絶え間ないご尽力のおかげで編集活動が維持されてきたことを改めて認識し、尊敬と感謝の念を抱いております。
 さて、最近は様々な領域において進化がみられ、便利な物やサービスにより日常の多くのニーズが満たされる時代となりました。その一方で、地球環境も急速に変化している中、大量生産・大量消費型、効率重視の社会から、不便を楽しむぐらいの持続可能な社会へのシフトが進んでおります。これは、個々人のウェルビーイングの高い、人を中心とした社会が望まれているということではないでしょうか。
 このような変化の速い社会において求められる、そして生き残ることができるのは「ゼロ」から「イチ」を作る組織であるとされています。そのような組織であるには、そこに属するメンバーが皆ビジョンを共有し、各々の役割を理解したうえで自走できることが大前提となります。新しいアイデアを生み出すためには、フラットに議論できるよう、相互の信頼と心理的安全性が高いことが理想であるといえます。また、意欲的に新しい挑戦をし、失敗したら皆でバックアップするというスモールステップを重ねることも、時代に立ち遅れないための重要な要素と考えられています。つまり、組織のメンバーの一人ひとりが、社会の動きを鋭敏に捉えながら、自らの考えを持ち、リーズナブルな提案を受容し他者の挑戦を応援する気概を持っていることが大切です。日本眼科学会は、1万人を超える優秀な眼科医が患者さんのために知恵を絞り協力し合う土壌があり、社会課題の解決に貢献できる組織であると思います。
 日本は、団体戦では常に世界の上位に食い込む、チーム力に優れた国であると感じておりますが、ラクビーワールドカップやワールドベースボールクラシックなど世界の舞台で戦う姿を見ていると、その思いをあらたにするところです。また、東日本大震災後は、一丸となって復興に向かう過程で、日本人の思いやりや共助の精神に支えられました。もちろん、学術的な世界ランキングにおいてはまだ上を目指す余地があり、編集担当として、JJOのインパクトファクターを向上したいという目標もあります。皆様は「インパクトファクター向上」の真の意義はどこにあるとお考えでしょうか? 研究活動には、大きなビジョンのもと、社会へ成果を発信することにとどまらず、行動変容を促す周知・啓発活動までもが含まれると考えております。眼科領域の場合は、世界の視覚障害者をゼロにするということが大きなビジョンの一つといえるでしょう。JJOや国際学会で研究成果を発表することは、日本の底力を世界に発信する貴重な機会です。インパクトファクターの向上が実現できれば、より信頼感をもって広く成果を知ってもらうことが可能となります。日本の眼科医療には、世界に先駆けて迎えた超高齢社会という課題に取り組んでいる強み、世界と比較して北から南まで緻密で標準化された医療を展開している強み、少ない医療資源でその体制を維持している強みなど、数えきれない強みがあります。治療や検査を確立し社会実装することによって、それらの強みを世界に発信していけば、国際社会における日本のプレゼンスも自ずと向上することと期待しております。
 是非、皆様に忌憚のないご意見をいただき、編集におけるビジョンと戦略を共に創らせていただければ幸甚です。これから何卒よろしくお願いいたします。

公益財団法人 日本眼科学会
常務理事 中澤  徹