2023/10/10

保険理事より

 日本眼科学会保険理事を担当している堀です。保険理事は、社会保険に関わる仕事を行っています。以前から外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の仕事を行っていましたので、社会保険には興味があり、前理事会でも保険理事をさせていただいていました。これまでの経験を活かして、引き続き頑張っていきたいと思います。今回は、最初に我が国の医療政策について少し述べて、そのあとに社会保険についてお話をしたいと思います。
 我が国は、国民皆保険制度の国であり、高い保険医療水準を実現し、世界最長の平均寿命を誇っています。2021年の日本人の平均寿命は男性81.47歳、女性87.57歳です。一方、少子化の影響で、日本の総人口は2010年の1億2,806万人をピークとして減少しており、高齢者の割合が増加しています。我が国における「高齢者」とは65歳以上のことを指し、65歳から74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と分けて定義しています。2016年の統計で、総人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は27.3%であり、今後も増え続けると考えられています。さらに、2022年ごろから団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になり始め、2026年頃にはすべての団塊の世代が後期高齢者になるといわれています。我が国では、75歳以上になるとこれまでの医療保険から脱退し、「後期高齢者医療制度」に加入することになります。後期高齢者医療制度の財源は、1割の患者負担(現役並み所得者は3割)を除くと、後期高齢者の保険料(1割)、現役世代の保険料からの支援金(約4割)および公費(約5割)で成り立っています。保険制度は、現役世代が高齢者を支える仕組みになっていますので、「支え手」である現役世代割合の減少は、我が国の医療制度に大きく影響します。例えば1965年頃は、65歳以上1人に対して現役世代(20~64歳)9.1人で支えていました(これを「胴上げ型」というそうです)。しかしながら、2012年には65歳以上1人に対して現役世代は2.4人で支えるようになり(これは「騎馬戦型」というそうです)、さらに、今後将来、2050年には1人の高齢者を1.2人の現役世代で支える時代(これは「肩ぐるま型」というそうです)が来ると考えられています。
 日本の総人口は減っていますが、医療や介護にかかる費用は増えています。また、疾病構造が変化し、最近は急性疾患の割合が減り、慢性疾患の割合が増えています。例えば、これまで3大死因は、「癌」「心疾患」「脳血管疾患」といわれていましたが、2018年には第3位の死因が「脳血管疾患」から「老衰」に変わったそうです。このように慢性疾患が増えていくと、今後は、医療や福祉に対してさらに多くの資源が必要になります。地域における病院機能(急性期、慢性期、介護・リハビリなど)の役割分担や在宅医療の推進も重要ですし、医療従事者の確保や育成も急務になってきます。このような背景のもと、政府は2040年の医療提供体制の展望を見据えて「地域医療構想の実現等」「医師・医療従事者の働き方改革の促進」「実効性のある医師偏在対策の着実な推進」の三位一体で改革を推進しています。
 医療技術の革新や新薬の開発、より安全な医療を提供するためのコストの増加など、医療費が高騰するのは理由がありますが、年々増えていく医療費を限られた財源の中でいかにして適正に配分するかを決める必要があります。診療報酬についての政策を行っているのが、厚生労働省の保険局医療課であり、具体的な審議は、厚生労働省の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)で行われています。診療報酬改定は2年ごとに行われ、改定の前年の夏に厚生労働省とのヒアリングが学会ごとに行われます。眼科は、日本眼科社会保険会議が中心となり、日本眼科学会、日本眼科医会、日本眼科学会関連学会の外保連加盟学会と一緒に連帯してヒアリングを行っております。来年(2024年)は診療報酬改定の年に当たり、そのヒアリングは今年の8月2日(水)に行われました。ヒアリングの詳しい内容については、10月開催の第77回日本臨床眼科学会の中での社会保険会議シンポジウムをご視聴ください(10月23日からオンデマンド配信開始予定)。
 日本眼科学会は、今後も政府の医療政策について注視し、眼科の立つべき位置を考え、関連学会と連携を取りながら、国民のための医療を続けていきたいと思います。今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

公益財団法人 日本眼科学会
常務理事 堀 裕一