2023/11/09

医療DX

 2023年4月から日本眼科学会記録理事に就任いたしました。大鹿哲郎理事長のご指導の下、微力ながら2年間全力を尽くしていく所存ですので、何卒よろしくお願いします。
 電子カルテの普及により、多くの医療機関が患者情報を電子記録として保存しており、診断情報、処方箋、検査結果、遺伝子情報など、個人情報を含む多岐にわたる医療関連データは急速に増加しています。これにより情報のアクセスや共有が容易になっています。また、医療関係者の間でもオンラインでのコミュニケーションが増え、データの電子的な転送が増加しています。
 「医療DX令和ビジョン2030」(2022年、厚生労働省推進チーム会議資料)によれば、医療デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることと定義されています。
 しかし、課題も多くあります。第一の課題は、データの標準化とプラットフォームの構築です。政府主導で2030年ごろまでにこのためのインフラ整備が進み、情報のアクセスと共有化に有利という電子データが本来持つ利点を十分に活かすことができるようになることを期待したいと思います。
 第二の課題はハッキング、データ漏洩、不正アクセスなどにより、患者情報のプライバシーが侵害されるリスクへの対策です。国内の病院へのサイバー攻撃により病院機能が麻痺したことがニュースとなったのは記憶に新しいところであり、強固なセキュリティ対策が必要です。
 第三の課題は、医療DXには高度な技術インフラとトレーニングを必要としますが、そのためのコストや技術レベルの確保についてです。さらにデータの品質(データの誤り、不正確さ)が担保されないと、誤った情報が診断や治療に悪影響を及ぼす可能性があげられます。
 第四の課題としては、患者側の立場に立ったとき、高齢者や経済的に困難な状況にあるなど、デジタルテクノロジーにアクセスできない人々にとって、DXは医療の情報格差を引き起こしたり、患者がプライバシー侵害に関する懸念を抱いたりする可能性があることがあげられます。
 総括すると、医療DXは医療分野に多くの利益をもたらすものですが、一方で、データの標準化とプラットフォームの構築、適切なセキュリティ対策や個人情報保護策を講じなければならないなど、課題も存在します。政府、医療プロバイダー、医療関係者、患者などが協力して推し進めるべきものであると考えられます。
 眼科領域では、以前から診療、教育、研究といったさまざまな目的でデジタルデータである手術動画を取り扱う機会が多くあります。最近、眼科手術動画をインターネットにアップロードして、手術の技量を競うサイトが設けられSNSで拡散されたことに対して、日本網膜硝子体学会から会員向けに手術動画に対する一般的見解と取り扱いの注意点が示されました。手術動画の不特定多数での供覧は、個人情報保護と情報管理に対する十分な配慮が必要であり、教育・医学の発展に明らかに有益なものに限られるべきであり、日本眼科学会としても今後注視していきます。
 情報社会・デジタル社会に生きる眼科医として、会員の皆様におかれましても今一度、医療関連データの取り扱いについてご確認いただけたらと存じます。

公益財団法人 日本眼科学会
常務理事 根岸 一乃