理事会から

2023/12/08

専攻医シーリング制度の効果は?

 シーリング制度の流れ
 シーリング制度は、臨床研修を終えて専攻医を採用する定員数に上限(=シーリング)を設けることにより医師の地域偏在を是正する目的で2018年に開始されました。開始当初は、5都府県(東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県)において、過去5年間の平均採用数を目安に各診療科のシーリング数が設定されました。翌年の2019年では、2018年度の専攻医が特に東京都に集中したことを受け、東京都のシーリング数が5%削減されました。
 しかし、この初期のシーリング数が実際の医師数の実態に合っていないという厚生労働大臣からの意見・要請を受け、2020年度からは厚生労働省が計算した都道府県別必要医師数を基に新たな計算が行われ、各都道府県別診療科において必要医師数に達している診療科に対してのみシーリングが設けられました。その後は微修正を加えながら現在のシーリング数となり、COVID-19が流行したことを考慮して2024年度まではほぼ同数のシーリングのままで専攻医採用が行われています。現在、眼科でシーリングがあるのは、東京都、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県の5都府県です。
 このように専攻医シーリング開始からすでに5年以上が経過し、その効果についての検証も少しずつ行われています。日本専門医機構(以下、機構)による資料によれば、10万人あたりの専攻医数はシーリング後に確かに東京では減少しており(2018年13.2人→2022年12.5人)、一定の効果はあったと考えられます。しかしながら、その代わり増えているのは神奈川県(2018年5.4人→2022年6.9人)、千葉県(2018年4.3人→2022年6.3人)、埼玉県(2018年3.1人→2022年5.2人)であり、シーリング対象地域であぶれた専攻医がその周辺の都会に流れているという状態で、本当に増えてほしい地域に専攻医が移動しているとは言い難い状況です。

 2023年度より開始された特別地域連携プログラム
 このような状況を受け、2023年度の専攻医採用からシーリング対象地域に新たに「特別地域連携プログラム枠」が創設されました。これは医師少数地域の病院で12か月以上の研修を行うことで、プログラムに定員を加算できるという制度です。眼科の場合、対象となる県は、2016年・2018年に医師の足下充足率が0.7以下であった5県(青森県、秋田県、岩手県、福島県、新潟県)であり、この5県の中でさらに医師少数区域となっている二次医療圏に所在する医療施設のみが対象となりました。つまり、単に医師の少ない都道府県で従事するというだけでなく、その中でさらに医師少数区域にある病院に行かなければいけないという規則になりました。条件が厳しいため、2023年度はこの特別地域連携プログラム枠の応募者は少なく、眼科においても15人の定員に対して応募者はわずか2名であり、来年度の2024年度に関しては現時点で応募者はゼロの状態です。

 シーリング制度はどうなる?
 以上のように、医師の地域偏在を是正する目的で5年前に開始されたシーリング制度は一定の効果が認められたものの、本来の目的を達しているとは言い難い状況です。それでは、「医師の養成課程を通じた医師偏在対策」は、どの段階で行うことが最も効果的なのでしょうか? 医師の養成課程の中で医師偏在対策を行う機会は3回あります。それは、① 医学部入学の時点で行う(=つまり地元地域の入学枠を増やす)、② 臨床研修の時点で行う(=つまりマッチングで都市部の定員を絞る)、③ 専門研修の時点で行う(=つまり専攻医のシーリング数で絞る)の3段階です。この3段階において最も効果的なのは ①であることはデータによりすでに証明されています。つまり、出身地の大学に就学資金の受給とともに地域枠で進学し、その後、地域枠の要件として同じ都道府県で臨床研修を行った場合、その医師のその後の地元定着率は90%程度と高く、②や③よりも効果的なのです。
 シーリング効果が期待したほど上がっていないことから、最近機構は別の方法として「専攻医マッチング(=臨床研修と同様のマッチング方式)」を検討し始めているという報道もあります。眼科としては、他科とも密に連携を取り、機構に必要な意見を述べながらこれからも引き続き対応していきたいと考えています。今後ともどうかよろしくお願い申し上げます。

公益財団法人 日本眼科学会
常務理事 近藤 峰生