2024/03/08

診療ガイドライン再考

 2023年4月から日本眼科学会理事に就任させていただきました稲谷 大です。初めての理事会メンバー入りでご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、大鹿哲郎理事長のご指導のもと、理事の皆様と一緒に協力して、これからの日本眼科学会に尽力していく所存ですので、何卒よろしくお願いいたします。
 理事として、第五期日本眼科学会戦略企画会議の第三委員会「組織強化と保険医療対策」の副委員長に加えていただきました。常務理事の堀 裕一委員長と根岸一乃副委員長のご指導を仰ぎながら、11名の委員の先生方と一緒に、診療ガイドラインの整備、眼科医の勤務環境整備とダイバーシティの推進、関連学会との連携強化、そして日本眼科医会とのさらなる連携について取り組んでおります。
 特に今回、私は診療ガイドライン委員会の委員長を担当させていただくことになりました。診療ガイドライン委員会では、各専門領域から投稿される診療ガイドラインを承認するためのルールづくりと、診療ガイドライン原稿の査読を行っております。毎年度、各専門領域からたくさんの診療ガイドライン原稿が提出されております。これらの原稿を、診療ガイドライン委員会委員の皆様と一緒に査読し審議しています。
 公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する医療情報サービスMinds(medical information network distribution service)が示す定義では、診療ガイドラインとは「健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書」となっています。Mindsが提唱している診療に最適と考えられるたくさんの推奨文をガイドラインへ盛り込むためには、多くの専門家が時間と労力を費やして、世界中の膨大な臨床研究データを検索し吟味しなければなりません。推奨文が盛り沢山のガイドラインを目指すと、年月がかかりすぎて、そのうちに新たな研究データが発表されてしまって、せっかく作成したガイドラインが古くなってしまう恐れも出てきます。
 そこで、あまり気負いすぎて推奨文盛り沢山のガイドラインを目指すというよりはむしろ、読者側の視点に立って是非知っておいてもらいたいと思う治療法の推奨文に絞って作成することを優先していただくべきなのかなと私は思います。例えば、その専門領域ではエビデンスが確立されていて常識となっている治療法であるのに専門外の眼科医には十分に浸透していない内容とか、専門外の眼科医は経験的には正しいと思っている治療法が、実はまだエビデンスが不足していて議論が分かれている治療法に対する注意喚起のための推奨文などが、読者目線ではきわめて有益な情報と考えます。
 投稿された診療ガイドライン原稿を査読してみて分かったことですが、私の専門外の領域の診療ガイドラインですと、内容が十分に理解できないこともあり得ます。よくよく考えてみると、診療ガイドラインを必要としている読者は、その専門領域の眼科医ではなく、むしろ私のような読者が対象なのです。ですから読んでみて、記載が簡潔明快ですぐに理解できることが重要だと思います。これまで私も自分の専門領域でガイドラインの作成に携わってきましたが、専門家の読者を意識した記載にこだわりすぎて、一般読者に配慮する気持ちがすっぽり抜け落ちていたように思います。
 また、疾患の定義や病型分類、薬物や術式のラインナップや適応基準などに関しても、医学の進歩により大きく変化した場合には、読者皆様への知識のアップデートとして知っておいてもらいたい内容もきっとあると思います。このあたりは、システマティックレビューに基づいた推奨文の作成とは次元の異なる内容ですが、疾患と治療の現状を読者が理解するための助けになると思いますので、作成するガイドラインの中に盛り込んでいただいて、分かりやすい記載に配慮していただければと思います。
 読者目線ということに関連して、日本眼科学会Webサイトの「ガイドライン・答申」ページで、改訂版がすでにアップされているガイドラインに関しては、古いバージョンを読者がダウンロードして混乱を来さないように、ファイルを削除させていただきました。医学は日進月歩です。ガイドラインを作成された専門領域の先生方におきましては、今一度、過去に作成されたガイドラインを読み返していただき、現状と乖離が生じている場合には、ぜひ改訂版の作成をご一考していただければと存じます。

公益財団法人 日本眼科学会
理事 稲谷  大