成人視力検査眼鏡処方手引き作成委員会
緒 言
情報化社会が進展する中で、日常生活における視覚的なストレスは加速度的に増大している。デジタルデバイスが身の回りに溢れ、それらを長時間使用することで目に大きな負担がかかる現代において、国民のquality of visionをどのようにして守るか、屈折矯正の重要性が一層問われている。
眼科診療にはさまざまな検査法と治療法があるが、最も基本的で重要な検査法は屈折と視力の測定であり、治療法の基盤を成しているのが眼鏡による屈折矯正である。
屈折異常を検出・測定し、裸眼および矯正視力を測定することから、眼科診療は始まる。視力検査の結果には多くの情報が含まれており、眼疾患の発見やスクリーニングにつながる貴重なデータを与えてくれる。診療の高度化に伴って、現在では多様な視機能評価法が行われるようになっているが、最も基本的な視機能評価法はと問われれば、やはり視力検査ということになる。その視力検査も、簡単に行える症例ばかりとは限らず、屈折の知識を駆使して慎重に行わなければならないケースもある。そのような症例でこそ、屈折と視力の正確な測定値が診断および治療に結びつく大切なデータとなることが多い。正しい情報を得るためにも、眼科医と視能訓練士は、屈折・視力検査の基礎と応用に精通している必要がある。
屈折異常の矯正手段としては、保存的方法と手術的方法があり、状況により使い分けられている。しかし、安全性、可逆性、利便性、簡便性などの点で、眼鏡矯正が依然として屈折矯正法の主座であり、最もベーシックなものである。
小児における屈折矯正が視機能の健全な発達のために重要であることはいうまでもないが、成人における近視・遠視・乱視などの矯正も、高度化する情報化社会においてその重要性を増している。一方、人は必ず老視化する。長寿命化に伴い、多くは人生の半分を老視の状態で過ごすことになる。屈折矯正と一生無縁である人は皆無に近いであろう。
正しい屈折矯正を通じて快適な「視生活」を提供し、国民の目の健康を守ることは、眼科医および眼科医療に関わる者の重要な仕事であり義務でもある。屈折異常は疾患であり、屈折矯正は医療行為である。本手引きが臨床の場で十分に活用されることを願い、緒言としたい。