ガイドライン・答申

2025/09/11

近視管理用眼鏡(多分割レンズ)ガイドライン(第1版)New

近視管理用眼鏡ガイドライン作成委員会

緒 言

 Holden らのシステマティックレビューによれば、2000年における全世界の近視人口は13億人、強度近視の人口は1.6億人(有病率2.7%)と推定される。2050年には、それぞれ49億人および9.4億人(9.8%)と急増し、強度近視人口は5.8倍になると予測されている。近視が強度になるとともに、眼軸長の過伸展によって網膜や脈絡膜に病的変化が起こり、黄斑変性、網膜剝離、緑内障など失明につながる眼疾患に罹患するリスクが高くなる。このため世界保健機関では、近視進行や眼軸長が過伸展を起こしやすい小児期に、包括的な対策を講じることが医学的・社会的な急務であると声明を発信している。問題はアジアの国々で最も深刻であり、中国の大規模疫学調査によれば、2001年から2015年の15年間で、高校生における強度近視の有病率は7.9 %から16.6 %へ倍増している。我が国でも,成人(≧40歳)における強度近視(<-5.00 D)の有病率は、多治見スタディで8.2 %、久山町研究で5.7~ 9.5 %であったのに対し、小・中学生約1,500人を対象とした疫学調査によれば、強度近視(≦-6.00 D)の有病率は中学生で11.3 %と報告され、すでに成人を上回っている。
 これまでランダム化比較試験を経て、臨床的に有用とされる抑制率(30~40 %以上)が示された治療法として、アトロピン点眼液、オルソケラトロジー、多焦点ソフトコンタクトレンズ、低照度赤色光治療、さらにデフォーカス組込み理論(defocus incorporated theory)に基づく多分割眼鏡レンズ(multiple segments spectacle lens)やコントラスト理論(contrast theory)に基づく低光線拡散レンズ(spectacle lenses with diffusion optics technologyTM:DOT lens)などの近視管理用眼鏡があげられる。このような背景をもとに、日本近視学会は近視管理用眼鏡レンズに分類される多分割眼鏡レンズのMiYOSMART®(HOYA社)、Essilor® Stellest®(Nikon‒Essilor社)について、「処方者」、「作製者」、「適応」、「禁忌または慎重処方」、「インフォームド・コンセント」、「処方前検査」、「処方上の留意事項」、「経過観察」、「経過観察での留意点」から構成されるガイドラインを作成した。
 近視管理用眼鏡が適切に使用されるためには、患者およびその家族の協力を得ながら、ガイドラインを体系的に実施することが重要である。このガイドラインが日常臨床において広く活用されることを期待する。ただし、医療は本来医師の裁量に基づいて行われるものであり、医師は個々の症例に最も適した診断と治療を行うべきである。日本近視学会は、このガイドラインを用いて行われた医療行為により生じた法律上のいかなる問題に対しても、その責任を負うものではない。