2021/01/10

無虹彩症の診療ガイドライン

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業
「角膜難病の標準的診断法および治療法の確立を目指した調査研究」研究班
診療ガイドライン作成委員会

緒言

 無虹彩症は、程度がさまざまな虹彩形成異常に加えて角膜症、白内障、緑内障、黄斑低形成、眼球振盪症などを合併する難治性眼疾患である。責任遺伝子は眼の発生におけるマスター遺伝子として知られているPAX6遺伝子であり、この遺伝子の片アリルの機能喪失によって機能遺伝子量が半減(ハプロ不全)することで発症すると考えられている。
 本疾患は、難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)に基づき指定難病に定められており、「角膜難病の標準的診断法および治療法の確立を目指した調査研究」研究班において、診断基準および重症度分類を作成してきた。今回我々は、無虹彩症患者の診療をより高いレベルで行うことを目的としてMedical Information Net work Distribution Service(Minds、一般的にマインズと呼ばれる)の方法による診療ガイドラインを作成した。Mindsとは厚生労働省の委託を受けて公益財団法人日本医療機能評価機構が運営するevidence-based medicine普及推進事業のことである。
 Mindsによると診療ガイドラインは「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義されている。すなわち、無虹彩症の診療上における重要臨床課題について、専門家が集まって意見を集約してガイドラインを作るのではなく、システマティックレビューの形でエビデンスを系統的な方法で収集し、採用されたエビデンスをエビデンス総体として評価してまとめ、それをもとに重要臨床課題におけるクリニカルクエスチョンに対する推奨をまとめるものである。
 本診療ガイドラインにおいては、診療上重要と考えた6つのクリニカルクエスチョンと3つのバックグランドクエスチョンについてエビデンスをまとめ、クリニカルクエスチョンについてはその推奨を作成した。無虹彩症のような希少疾患においては無作為化比較試験などのエビデンスレベルの高い研究が残念ながら行われておらず、いずれのクリニカルクエスチョンについても強い推奨をまとめることはできなかった。しかしながらMindsにおいて目標と定められているように、本診療ガイドラインが、患者および医療者が少しでも科学的合理性が高いと考えられる診療方法の選択肢について情報を共有し、患者の希望・信条や、医療者としての倫理性、社会的な制約条件なども考慮して、患者と医療者の合意のうえで、最善と考えられる診療方法を選択する助けとなれば、これ以上の喜びはないと考えている。

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業
「角膜難病の標準的診断法および治療法の確立を目指した調査研究」研究班
研究代表者 西田 幸二

(日眼会誌125:38-76,2021)


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