ガイドライン・答申

2021/06/10

前眼部形成異常の診療ガイドライン

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業
「角膜難病の標準的診断法および治療法の確立を目指した調査研究」研究班
診療ガイドライン作成委員会

緒言

 前眼部形成異常は、眼先天異常のうち主な異常所見が前眼部(角膜・虹彩・隅角)に限局しているものであり、後部胎生環、Axenfeld異常、Rieger異常、後部円錐角膜、Peters異常、強膜化角膜、前部ぶどう腫の総称である。孤発例が多いが、常染色体劣性遺伝または常染色体優性遺伝を示す例もみられ、PAX6PITX2CYP1B1FOXC1などの遺伝子変異が報告されている。前眼部形成異常は片眼性の場合も両眼性の場合もあるが、本邦の統計では両眼性が4分の3程度を占めている。角膜混濁を伴う前眼部形成異常では形態覚遮断弱視を伴いやすいので、視力予後は概して不良であり、重度の視覚障害を呈する例が多い。
 本疾患は、難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)に基づき指定難病に定められており、「角膜難病の標準的診断法および治療法の確立を目指した調査研究」研究班において、診断基準および重症度分類を作成してきた。今回我々は、前眼部形成異常患者の診療をより高いレベルで行うことを目的としてMedical Information Network Distribution Service(Minds)形式に沿った診療ガイドラインを作成した。Mindsとは厚生労働省の委託を受けて公益財団法人日本医療機能評価機構が運営する事業である。
 Mindsによると診療ガイドラインは「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」と定義されている。本研究班では、前眼部形成異常の診療上の重要臨床課題について,専門家の意見を集約した“authority-based”の方法論ではなく、“evidence-based”のガイドライン作成を目指した。すなわち、エビデンスを系統的な方法、システマティックレビューの形で収集し、採用されたエビデンスを総体として評価してまとめ、それに基づいて重要臨床課題に対する推奨をまとめたものである。
 本診療ガイドラインにおいては、診療上重要と考えられる3つのクリニカルクエスチョンについてエビデンスをまとめ、クリニカルクエスチョンについてはその推奨を作成した。前眼部形成異常のような希少疾患においては無作為化比較試験などのエビデンスレベルの高い研究が行われておらず、いずれのクリニカルクエスチョンについても強い推奨をまとめることはできなかった。このため厳密な意味での整合性や明瞭性の面には議論となる部分が残っているが、診療ガイドラインの本来の目的が「教科書や決まりごとを示すことではなく、あくまで診療の手助けになること」であることを考慮した結果とご理解いただければ幸甚である。本診療ガイドラインが患者と医療者が最善と考えられる診療方法を選択する助けとなることを願っている。

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患政策研究事業
「角膜難病の標準的診断法および治療法の確立を目指した調査研究」研究班
研究代表者 西田 幸二

(日眼会誌125:605-629,2021)