マイボーム腺機能不全診療ガイドライン作成委員会
緒 言
マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction:MGD)の診療ガイドラインをお届けする。MGDではさまざまな原因によってマイボーム腺の機能が異常を来し、慢性の眼不快感を起こす。またMGDからドライアイが発生し、ドライアイに伴う眼乾燥感、眼疲労感などの自覚症状が現れる。国内の疫学調査では50歳以上の日本人の10~30%程度がMGDであることが示されており、MGDは多くの人々のquality of lifeを低下させる、臨床的に重要な疾患である。
MGDの診療をサポートする報告としては、2010年に国内でMGDワーキンググループがMGDの定義・分類・診断基準を発表しており、広く使われてきたが、包括的な内容ではなかった。海外では2011年にThe International Workshop on Meibomian Gland DysfunctionがMGDに関する知見を包括的に報告したが、authority-basedなものであった。そこで今回、evidence-basedで包括的な内容を持つMGD診療ガイドラインを初めて作成した。
診療ガイドラインとは、「診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのあるシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考慮して、患者と医療者の意思決定を支援するために最適と考えられる推奨を提示する文書」である(小島原典子、他:Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017。公益財団法人日本医療機能評価機構EBM医療情報部、2017)。我々は、Medical Information Network Distribution Service(Minds)の形式に則り、MGDの診療上で重要な課題を6のバックグラウンドクエスチョンおよび30のクリニカルクエスチョンとし、これらに対してシステマティックレビューを行い、推奨を提示した。
今回の診療ガイドライン作成をとおして、信頼できるエビデンスの少ない課題が少なからず存在することが分かった。エビデンスレベルや推奨提示が弱い課題に関しては、今後の研究の蓄積が望まれる。そうした今後の研究の進展に伴い、本診療ガイドラインもアップデートされていくことが必要である。本診療ガイドラインが、MGDに関わる皆様に広く活用されることを願っている。
マイボーム腺機能不全診療ガイドライン作成委員会
委員長 天野 史郎
(日眼会誌127:109-228,2023)