ガイドライン・答申

2023/10/06

感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)

日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第3版作成委員会


感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)について

 感染性角膜炎は、初期診断や治療を誤れば重篤な視力障害を引き起こすため、眼科診療においても的確な診断と治療を要する疾患の一つで、診療におけるガイドラインが必要と考えられています。日本眼感染症学会主導で作成された感染性角膜炎診療ガイドラインが2007年に公開(日眼会誌第111巻10号に掲載)され、第2版が2013年に公開(日眼会誌第117巻6号に掲載)されています。近年、診療ガイドラインは、エビデンスを客観的に評価しながら作成されるようになってきており、Medical Information Network Distribution Service(Minds)形式を採用しているものが多いのが現状です。Minds診療ガイドライン作成マニュアル編集委員会によると、診療ガイドラインの定義は「健康に関する重要な課題について、医療利用者と提供者の意思決定を支援するために、システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し、益と害のバランスを勘案して、最適と考えられる推奨を提示する文書」とされており、エビデンスを重視したものを推奨しています。一方で、感染性角膜炎は、原因微生物や臨床所見が多彩で、使用できる治療薬も限りがあり、また、風土的な影響や使用される抗微生物薬の違いも大きく関与しているため、海外での論文のエビデンスを日本の診療においてそのまま適用できるかどうかは不明な点も多いです。さらに、感染性角膜炎の臨床所見や治療においては論文のエビデンス化が難しい面も多く、経験的な見地によるものも少なくありません。第1版・第2版では、一般臨床において、臨床所見から感染性角膜炎の原因病原体を推測し、微生物学的検査の施行により確定診断したうえで、的確な治療を行うまでの多くの指針が、論文や先人の経験的な観点を踏まえて解説されており、現在でも通用する診療ガイドラインと思われます。しかしながら、2013年以降も多くの臨床研究が行われ、エビデンスが集積されていることも事実です。
 感染性角膜炎は、細菌、真菌、原虫、ウイルスが原因となって角膜に炎症を来す疾患で、いったん発症すると、視力低下のみならず疼痛や流涙など日常生活に支障を引き起こす症状を伴います。それにもかかわらず、重症例においては、治癒までに長期間の治療が必要となる場合も少なくありません。また、治癒後も不正乱視などの後遺症によって視機能が低下する場合もあり、臨床を行ううえで課題も多いのも事実です。なかには、今までの診療ガイドラインでは明確にされていない臨床上の課題も存在します。感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)では、第2版に記載されていた総説については最新の情報を交えながらスコープの章に述べて、続いて、Minds形式に準じ、臨床上の課題と思われるクリニカルクエスチョン(CQ)を検証することにしました。
 今回取り上げたCQ以外にも多くの臨床上の課題はありますし、まだエビデンスの集積が不十分なCQもあります。これらに関しては、今後の医学ならびに臨床研究の進歩により補完されていくものと信じています。
 感染性角膜炎をはじめとする感染症は、新型コロナウイルス感染症で我々が痛感したように微生物との闘いであり、今後も決してなくならないと思われます。微生物との闘いを制するためには、エビデンス、経験も含めて、多くの情報が必要です。本診療ガイドラインが感染性角膜炎に苦しまれている患者さん、医師、医療スタッフの皆様の一助になれば幸いです。
 

日本眼感染症学会感染性角膜炎診療ガイドライン第3版作成委員会
 委員長 鈴木  崇

(日眼会誌127:859-895, 2023)