理事会から

2025/11/10

アイフレイル啓発で国民の眼の健康を守る

 2025年4月より、日本眼科学会記録理事を拝命いたしました。「アイフレイル」という概念が公表されてから4年が経過し、これまでの啓発活動の進捗についてご報告申し上げます。

 
 アイフレイル啓発の経緯

 本邦における視機能障害者数は、2007年時点で約164万人とされ、2030年には200万人に達することが予測されています。視機能障害の有病率は加齢とともに上昇し、70歳以上では、男性の約5%、女性の約3.5%が視機能障害を有すると報告されています。また、2019年に新たに身体障害者手帳を取得された方のうち、70歳以上の高齢者が全体の65.1%を占めており、加齢とともに高度な視機能障害に至る方が多い現状が明らかとなっています。
 こうした状況に危機感を抱き、日本眼科啓発会議は2021年に、加齢に伴う視機能の低下を表す概念として「アイフレイル」を提唱いたしました。本邦における視覚障害の主な原因は、緑内障、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性など、介入可能な慢性疾患が大半を占めております。これらの疾患は40~50代から徐々に進行するため、早期にアイフレイルを発見し、対応することで、重度の視機能障害への進行を防ぐことが期待されます。

 
 アイフレイル啓発の目的

 アイフレイル対策の基本は早期発見にあります。できる限り「未病」の段階で気づくことが理想とされます。2024年に日本眼科啓発会議が実施した約1万2千人を対象としたアンケート調査では、「現在、健康面で不自由を感じていること」として「目(視覚)に関すること」をあげた方が42.5%と最も多くなりました。一方で、「目の健康維持や病気予防に普段から努めている」と回答した方は22.8%にとどまり、歯や足腰と比較して著しく低いことが分かりました。 
 さらに、目に何らかの自覚症状がある方のうち、1年以内に眼の検査を受けた方は52.6%にとどまり、早期発見につながる啓発活動がまだ不十分であることも明らかとなりました。
 また、40歳を過ぎると、常にではないものの「以前と見え方が違う」「少し見づらい」などの変化を感じることがあります。しかしこの年代の方々は、そうした違和感を「加齢のせい」として見過ごしがちです。
 アイフレイル啓発活動では、こうした気づきを「歳のせい」と片付けず、ご自身の“見る力”を振り返る機会とすることを目指しています。特に、目の衰えを感じ始める40歳以上の方に向けて、「がんばってきた目とこれからも仲良く」をキャッチコピーに掲げ、目を大切にする意識を高めてもらえるよう啓発を行っております。

 

 アイフレイル啓発活動の進捗

 日本眼科啓発会議では、アイフレイル啓発活動に参加してくださる「アイフレイルアドバイスドクター」および「アイフレイルサポート視能訓練士」の募集を行っています。登録はアイフレイル啓発公式サイト(https://www.eye-frail.jp/)から簡単に行うことができ、すでに1,100名を超える方々がアドバイスドクターとして登録されています。
 眼科医療従事者は一般の方々と接する機会が比較的限られますが、多くのアドバイスドクターや視能訓練士の先生方が、地域住民を対象とした講演会や、他科の医師向けの講演などを通じて啓発活動にご協力くださっています。上記のウェブサイトでは講演用スライドセットも公開しており、自由にご活用いただけます。
 また、眼科領域以外との連携としては、調剤薬局との協働を推進してきました。薬局は多様な診療科の処方薬を受け取る患者が訪れる場であり、調剤の待ち時間にセルフチェックを行ったり、薬剤師が聞き取りを行ったりすることで、アイフレイルの早期発見に役立てる取り組みが広がっています。調剤薬局は地域住民の健康を支える「ハブ」として、今後も有効な連携が期待されます。
 さらに、日本眼科医会では広報活動の一環として、2022年6月よりACジャパンの支援を受けており、2024年度支援キャンペーンのテーマに「アイフレイル啓発」を選定しました。テレビ・ラジオCM、新聞広告、公共交通機関での広告など、多くのメディアを通じて広く周知されるようになり、ウェブサイトへのアクセスも急増いたしました。2025年4月のアンケート調査では、「アイフレイル」という言葉を聞いたことがある方が33.7%、その意味をご存知の方が10.8%に達しており、着実に認知度が高まりつつあります。

 
 今後の展望

 アイフレイル対策活動の開始から4年が経過し、予想を上回る広がりを見せております。しかしながら、一般の方への定着にはなお時間を要します。ACジャパンのキャンペーンは1年間に限られており、短期的な取り組みに終わらせることなく、今後も継続的かつ地道な啓発活動が求められます。
 「アイフレイル」および「アイフレイル対策活動」が、まずは眼科医療従事者の皆様に、そして広く一般の皆様に親しまれ、理解される言葉となるよう、引き続き努めてまいります。 

公益財団法人日本眼科学会
常務理事 辻川 明孝