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2023年4月から理事(中国・四国地方)を務めます広島大学の木内良明です。日本眼科学会は「眼科学の進歩発展を図り、もって人類・社会の福祉に貢献する」ことを目的としています。私の役割は日本全体の眼科に関する課題に取り組むだけでなく、地方での眼科が抱える課題を中央に伝え、問題解決を支援し、それを通じて地方の眼科学の進歩発展に貢献することと理解しています。 日眼会誌第126巻11号(2022年11月)のこの「理事会から」のコーナーに新潟大学教授の福地健郎理事が「地域医療と眼科を取り巻く現況」というタイトルで一文を書いておられます。その中で、医師の地域偏在や世代偏在、地域枠の学生の面接での言葉などが取り上げられています。広島には山陽新幹線の「のぞみ」がすべて停車し、プロ野球チームのカープもあります。サッカーチームのサンフレッチェもJ1にいるし、今年は新しいサッカースタジアムもできました。しかし、広島県は若者の転出が目立ち、3年連続で人口の転出超過日本一になりました。大学医学部の臨時定員増による「地域枠」のおかげもあり、広島県内の医師数は少しずつ増えていますが、その増加率は全国平均の半分以下です。中国山地は傾斜が緩やかで山襞にも多くの集落があります。さらに瀬戸内海の島々も抱えるため、広島県は北海道に次いで全国で2番目に無医地区が多い都道府県でもあります。都会のようで田舎である広島県の問題は中国・四国地方のみならず、日本の普遍的な問題であるともいえます。 開業医、勤務医を含む中山間地域の医師が減少しつつあります。患者が高齢化するだけでなく、地域で働く医師も高齢化しています。永年勤務していた医師が定年になったり、地域の頼りになっていた開業医が高齢や病気のために閉院するなどの事態が発生しています。その結果、勤務医、開業医を含めて眼科医がいない地域が少なからず存在します。何とか非常勤の眼科医でつないでいます。地域の医療問題を考える場合、自治体の首長や議員、市役所や町役場の職員、医師会、医師を派遣する大学関係者に加えて、住民代表がその会議のメンバーに入ります。当然のことながら住民の方は今まで受けていた医療サービスが手薄になることに反対します。選挙権を持つ住民の意見を自治体の首長や議員は無視できません。そこでどういうことが決定されるか容易に想像できるかと思います。 こうした状況のなか医師の働き方改革が始まりました。中山間地域の病院は大学病院や基幹病院の所在地から遠く、大学病院から診療支援に行ったら、往復の移動時間(2~3時間)と診療の時間(3時間)を合わせて5~6時間かかることも普通です。その後に大学病院で診療、研究を行うことは、働き方改革と真っ向からぶつかります。働き方改革をまともに行うと地域医療の弱体化は避けられません。これがベストという解決方法は分かりません。オンライン連携による指導相談支援でこの難局を乗り切ろうという考えもあります。ベテラン医師が現場に赴かなくてもWebで病状を把握し、現場にいる経験の浅い医師や看護師に診療の指導をするというものです。 ある程度の効果はあると思いますが、根本的な解決策になるのか疑問が残ります。 眼科の観点からみると人材不足は医師だけではありません。中国・四国地方では視能訓練士の不足も深刻です。視能訓練士法が制定された1971年ごろは「視能訓練士とは視能矯正分野に特化した専門職」と考えられていました。今では視能訓練士の業務は視能矯正分野に加えて、眼科検査一般、3歳児健診や中高年の集団検診、ロービジョンケアの4分野に広がっています。大学病院を含む規模の大きな病院には視能訓練士がそれなりに配置されています(定員割れをしていても)。つまり、最近の若手眼科医は視能訓練士がいる病院でトレーニングを受けています。そういう環境でトレーニングを受けた医師たちの勤務する病院や医院では視能訓練士はどうしても必要な職種と考えます。活躍の場が広がる視能訓練士に対する需要は増加の一途です。ところが、中国・四国地方には視能訓練士を養成する学校が1つしかありません。しかも、その唯一の視能訓練士養成大学が定員割れをしています。視能訓練士を目指す人が少ないのは、視能訓練士に対する国民の理解不足が一因と考えられます。日本視能訓練士協会だけでなく、日本眼科学会、日本眼科医会の三者が手を携えて組織的な広報活動を行うことは、問題解決の第一歩となるでしょう。
公益財団法人日本眼科学会 理事 木内 良明
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