理事会から

2024/10/10

地域における眼科医療の再編成と大学の役割

 昨年春の役員改選で、緒方奈保子先生、門之園一明先生とともに監事に選出していただきました.残りの任期は約半年、かつ微力ではありますが、日本の眼科と日本眼科学会の活動に可能な限りのお手伝いができればと思います。よろしくお願いいたします。さて、今回はすでに始まっている医療の縮小・再編と地方大学の役割について話題にしてみたいと思います。

 あるデータランキングのWebサイト(https://uub.jp/pdr/)によると、新潟県の人口減少率は-3.40%で、全国47都道府県中の第9位の高さです。より心配なのは出生数で、2023年の年間出生数は約11,000人と、この約20年でほぼ半減したそうです。新潟県では人口減少に伴う医療の縮小・再編・集約についての議論が始まっています。

 先日、ある学内の研究会で小児科の先生方が県内の小児科医療の再編成について議論されているのを聴く機会がありました。もちろんプライマリーケアを担う医師が広範囲に分布する必要があります。しかし、各診療施設でどのくらいの患者数を確保できるか、また次の段階の患者を各地区のどの施設が担うか、さらに重症化した症例をどこにどのように集約するのか、それぞれどのように連携するのか、などなどの問題が挙げられていました。まだ具体的というわけではありませんが、専門医師と医療施設の分配と再配置について、積極的な議論が始められていると感じました。眼科に目を向けると主な対象は高齢者で、全体の人口は減少しますが、高齢者人口は当面大きくは変わらず、概ね現状維持の状況が続くと考えられます。問題は眼科医数です。私が眼科医になったのは1985年で、それから約40年が経過しました。1985年ころは全国的に「眼科人気」と言われはじめた時期に当たります。その後、新潟大学でも全国と同様に多くの入局者を迎え、一気に大所帯となりました。最近、統計を取ってみましたが転機はやはり2004年で、この年には大きな2つのイベントがありました。一つは臨床研修制度の開始で、もう一つは国立大学の独立行政法人化です。新潟大学における2004年前後10年間の年平均入局者数は2003年以前に6.8人/年だったのに対して、2004年以降は1.1人/年でした。医局員数は2003年の100名超をピークに、2013年には半数以下まで減少しました。その後は、ほぼ同数の医局員数を維持し現在に至っています。

 つまり、この20年間は一度拡大した眼科医療をどのように縮小し、維持するかという無理難題を抱えながら活動してきたということになります。現時点は大量入局時代の専門医が新潟県内に分布し、眼科診療に従事し、活躍しておられます。その多くは新潟大学の出身で、新潟県眼科医会と新潟大学眼科の良好な連携をとりながら、診療に当たることができています。独立行政法人化に伴って国立大学病院でも病床稼働率や手術件数の統計が重視されるようになりました。医療の高度化に伴って中等度以上の患者さんの多くが当院に紹介され、また関連病院の減少に伴って手術患者さんが当院に集約されています。

 コロナパンデミックによる患者動向の変化も関係しているかもしれません。結果として、入院患者数、手術患者数が激増しました。現状を再度点検してみると、現在のスタッフに大きな負荷がかかっていることが分かりました。大学の臨床科にとって、研究・教育・臨床は3本の柱であり、いずれも大切な社会的役割です。このバランスも重要と思われますが、少なくとも当院では臨床に負荷がかかりすぎており、教育、研究がやや犠牲になっているように思われます。地方の大学病院はいずれの診療科においても、その地区の地域医療を担うという重要な機能を果たしていると考えられます。一方で、医学生・専攻医・医局の専門医の教育を担っているのも私達ですし、研究の推進は大学としての使命でもあります。そのコンビネーションとバランスをどのようにとっていくのかは、大学における臨床系診療科の永遠の課題なのかもしれません。

 医師数の増減とともに人口減少の問題は日本中のどこでも生ずる現象で、いずれは必ず議論されなければいけない問題だと思います。高度な医療レベルを維持しつつ、有効で効率の良い眼科医療圏の構築を目指して、議論していく必要性を感じます。また、同時に地方大学の使命と機能をどのように維持していくかについて、引き続き試行錯誤が必要と感じます。

公益財団法人日本眼科学会
監事 福地 健郎