理事会から

2024/11/10

国民の目を守る―こどもの目からアイフレイルまでのシームレスな活動―

 日本眼科学会理事・常務理事を拝命して6年目になりました。私が携わってきた役割は、国民の目の健康を守るために「こどもの目を守る」から「アイフレイル対策」までのシームレスな活動です。本稿では目の健康を守る活動の重要性について述べます。

 さて、私は本年3月末に金沢大学教授を定年で退任して名誉教授となり、現在は石川県七尾市にある恵寿総合病院の北陸緑内障センター長を務めています。また、北陸3県にある複数の基幹病院でも緑内障診療を行い、自称「緑内障コンサルタント」として、充実した日々を送っています。緑内障診療で感じることは、私にコンサルトされる緑内障患者さんの多くが、かなり進行した緑内障性視野障害があり、失明の一歩手前で気が付いて受診するケースの多さです。不可逆性の視神経障害を起こす緑内障を、視野障害が軽度ないし遅くとも中等度のうちに発見すれば、一生涯日常生活に必要な視機能を維持できるのに、と心の中で思うことがしばしばです。ここに緑内障早期発見のための啓発活動の重要性があり、アイフレイル(加齢に伴う目の機能の衰え)のうちに緑内障を見つけることが、患者さんの一生を左右する重大事であることが分かります。日本緑内障学会では緑内障の啓発活動として「ライトアップinグリーン運動」を実施しています。この運動は、国内各地のランドマーク的な建物などを緑色にライトアップすることで、緑内障という疾患についての正しい知識を広めようとするものです。緑内障の治療において重要な「早期発見」と、「継続」、「希望」の3つのメッセージを込めた活動で、これを広く国民に伝えることが、緑内障による失明をゼロにする王道であると思います。また、地元金沢では平成20年から金沢市医師会と協力して緑内障検診事業を行ってきました。検診の眼底写真の読影を、私を含めた緑内障専門の医師が地元の一般眼科医と共同で行うことにより、教育的効果と、精度の高い緑内障の早期発見に努めてきました。

 一生涯健康な目を保つには、緑内障以外にも注意が必要な多くの眼疾患があります。日本眼科啓発会議(日本眼科学会・日本眼科医会・関連諸団体が協力して広く国民に啓発活動を行う)、戦略企画会議第四委員会(啓発活動や政策提言を通して、視覚の健康・医療・福祉に貢献する)は、ともに日本眼科学会と日本眼科医会の先生方が2人3脚で「国民の目を守る」活動を行っています。その中で、人生100年時代に国民の目の健康を守るために力を入れている「こどもの目を守る」から「アイフレイル対策」までのシームレスな活動について紹介します。

 乳幼児期に、精度の高い視覚スクリーニングを行って弱視を発見し的確な治療につなげることは、良好な生涯視力を獲得するために重要です。「こどもの目を守る」活動として、3歳児健診視覚検査への屈折検査導入を目指して、長年にわたり関係機関に働きかけを行った結果、令和4年度から自治体が屈折検査機器(スポットビジョンスクリーナーなど)を購入する際に国の助成が下りることとなり、全国で導入が進みました。令和5年に新設された「こども家庭庁」と連携して視覚検査の精度向上にも努めており、令和5年度からは母子健康手帳に屈折検査の記録欄も新設されて、弱視への理解が浸透することが期待されます。また、日本眼科啓発会議では、令和5年、6歳までに視力1.0を獲得し、6歳からも裸眼視力1.0を維持することを願い、6月10日を「こどもの目の日」に制定してこどもの目を守る決意を表明し、弱視の治療や近視進行抑制に向けた取組みに全力を挙げているところです。

 一方、壮年期から高齢期になると、加齢による目の衰えを自覚するようになります。加齢に伴って眼の脆弱性が増加することに、様々な外的・内的要因が加わることによって視機能が低下した状態として「アイフレイル」という概念が提唱されました。日本眼科啓発会議は目の健康を守り健康増進につなげる「アイフレイル対策プロジェクト」を推進しています。前述した緑内障、そして網膜疾患は早期発見・早期治療が何よりも肝要であり、高度な視機能低下に至るリスクを大幅に低下させることが可能となります。このために、全国学会のシンポジウム開催や、メディア、政府、国会議員への働きかけの活動は重要です。私達はこれらの活動を継続して行うことで「国民の目を守る」ことに少しでも貢献したいと考えています。

公益財団法人日本眼科学会
理事 杉山 和久