日本眼科学会保険理事を担当しております。我々が、日々行っている診療にはそれぞれ手技や検査に対して診療報酬がついていますが、診療報酬は2年ごとに改定があり、次回の改定時期は来年2026年になります。本稿では、次回の日本眼科学会からの改定要望の一つである「未熟児網膜症に対する硝子体内注射」についてご紹介したいと思います。
未熟児網膜症に対しては、最近は、従来の網膜光凝固治療だけでなく、抗VEGF薬の硝子体内注射が治療の選択肢に加わりました。我が国では、2019年にラニビズマブが、2022年にアフリベルセプトが未熟児網膜症に対する抗VEGF薬として承認されています。2017~2018年に行われた国際共同治験であるRAINBOW studyでは、抗VEGF療法群の治癒成功率は80.0%であり、光凝固群の66.2%に比べて高い治癒率でした。関連学会(日本小児眼科学会、日本眼科学会、日本網膜硝子体学会)によると、現在、我が国で硝子体内注射が必要な未熟児網膜症の患児は、約2,000例になると推測されています。
現在、成人に対する硝子体内注射は「G016硝子体内注射(600点)」で算定します。未熟児網膜症に対する硝子体内注射は成人とは異なり、患者は新生児集中治療室(NICU)や新生児回復室(GCU)に入院中であり、保育器の中や手術室で注射を行うことになります。麻酔についても新生児科医師による経静脈麻酔薬の投与や、麻酔科管理による全身麻酔など、成人の硝子体内注射とは大きく異なります。このような背景から、以前より日本眼科学会は未熟児網膜症に対する硝子体内注射の増点を厚生労働省に対して要望してまいりました。
学会から提出する改定要望書には、必ず、「現状把握(実態調査)」や「学会のコンセンサス(ガイドラインや手引き)」の記載が求められます。日本眼科学会には未熟児網膜症眼科管理対策委員会(寺﨑浩子委員長)があり、日本眼科学会、日本網膜硝子体学会、日本小児眼科学会、日本眼科医会の各団体から推薦された委員で構成され、我が国の未熟児網膜症診療のあり方について検討しています。現在までに、未熟児網膜症に対する硝子体内注射を行っている施設に対してアンケート(2022年実施)および症例ごとの実態調査(2023年実施)を行っていただきました。特に実態調査では、日本小児眼科学会の東 範行理事長が中心となって10施設154症例を対象に、我が国の未熟児網膜症に対する硝子体内注射についての実態が詳細に検討されました。その調査によると、硝子体内注射施行時の修正在胎週数は平均36.6週(31~51週)、出生時体重は平均700 g(400~2,000 g)、手術室占有時間は平均68.2分、必要医師数は平均で眼科医2.0人、新生児科・小児科医1.6人、麻酔科医1.0人、看護師2.6人でした。また、未熟児網膜症眼科管理対策委員会からは、未熟児網膜症に対する抗VEGF療法の手引き(第2版)が公表されました(日眼会誌127:570-578、2023)。実態調査にご協力いただいた施設のご担当の先生方をはじめ、調査にご協力いただきました皆様方、また、手引き(第2版)の作成にご尽力された先生方にこの場を借りて御礼申し上げます。
診療報酬改定には、単に要望書を提出するだけではなく、日ごろから我々の意見や実態を社会に発信しておくことが重要です。現在、日本眼科学会と日本眼科医会が共同して活動している「日本眼科社会保険会議(社保会議)」では、毎年春の日本眼科学会総会と秋の日本臨床眼科学会でシンポジウムを行っております。2023年の日本眼科学会総会の社保会議シンポジウムでは、外科系学会社会保険委員会連合(外保連)の岩中 督会長(当時)や厚生労働省の方をシンポジストとしてお招きし、未熟児網膜症眼科管理対策委員会の寺﨑委員長に未熟児網膜症に対する抗VEGF療法のご講演をしていただき、我々の課題に対してコメントをいただきました。そのお陰もあり、2024年の診療報酬改定では、硝子体内注射(G016)の未熟児加算(600点)が認められました。
しかしながら、現状では加算を加えても1,200点にしかなりません。もともと、現在の硝子体内注射はGコード(注射)の範疇にあり、手術(Kコード)ではないため、増点には限界があります。そのため、2026年の診療報酬改定では、未熟児網膜症に対する硝子体内注射を新たな手術術式として認めていただけるように日本眼科学会から要望を出すことにしました。これは、前述のシンポジウムの際、外保連の岩中前会長や厚生労働省の方からアドバイスをいただいた方策でもあります。すでに、実態調査や手引きもありますので、今年夏の厚生労働省とのヒアリングではしっかりと要望をお伝えしたいと思っております。
以上、日本眼科学会が取り組む社会保険活動の一つをご紹介させていただきました。より良い眼科保険診療を行っていくために、学会としてエビデンスを構築し、コンセンサスを得ていく必要があります。これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。