はじめに
このたび、令和7年4月より、大鹿哲郎前理事長の後任として、公益財団法人日本眼科学会理事長を拝命いたしました西田幸二でございます。本学会は120年以上の歴史を有する我が国最古の臨床医学系学会で、現在は会員数1万6千人を超える有数の学術団体へと発展しています。このような由緒ある学会の理事長という重責を担うにあたり、身の引き締まる思いとともに、覚悟をもって臨む所存です。理事・事務局の皆様、日本眼科医会や関係諸団体のご支援を賜りながら、学会のさらなる飛躍に全力を尽くしてまいります。
4月13日に、2025年大阪・関西万博が開幕しました。日本で3度目、大阪では1970年以来2度目となる万博です。私自身8歳でアメリカ館の長蛇の列に並び、「月の石」を目の当たりにした際の感動と周囲の熱気は、今なお鮮明に記憶しております。今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」であり、私も大阪ヘルスケアパビリオンのアドバイザーとしてその開館に立ち会いました。本パビリオンでは、医学・医療の革新と人工知能(AI)を中核とした2050年の未来社会の姿が提示されています。iPS細胞研究と再生医療を紹介する展示では、高橋政代氏と私の研究成果にも触れていただいています。見学を通じ、改めて科学技術こそが未来を切り拓く鍵であることを強く実感しました。
社会との共創―未来医療の実装に向けて
再生医療や遺伝子治療、AI活用などの最先端医療は眼科から社会実装が進んでいます。今後は、デジタルツインによる精密医療、AIエージェント、ロボティクスなど、想像を超える技術が次々と社会に実装されることが期待されます。これらの技術を社会に実装するためには、国民の理解と共創が不可欠です。そのためにも、日本眼科啓発会議の活動は一層重要性を増しています。特に現在推進中のアイフレイル啓発に加え、倫理的・法的・社会的課題(ethical, legal, and social issues:ELSI)への組織的な取り組みも、学会として考慮すべき時期に来ていると感じます。さらに、公的医療保険制度の枠組みの中で、いかにして革新的な医療を早期に患者に届けるかという課題にも、行政との議論を含めて取り組んでいきたいと考えます。
学会の国際化―知の融合と発信の拠点へ
学会の本質は、人と人との対話を通じた新たな知の創造にあると考えます。その意味において、国際化とは、世界中の叡智を結集し、新たなアイデアを創出し、世界に向けて発信するための基盤を築くことです。今後、日本眼科学会総会および日本臨床眼科学会における外国人参加者の顕著な増加を目指し、英語使用の拡充や環境整備に取り組みます。将来的にはAI翻訳の活用も可能となるでしょうが、互いの理解を深めるための英語のトレーニングは引き続き重要であると考えます。
アカデミア人材の育成―未来を創る次世代へ
日本眼科学会専門医制度は、厚生労働省と日本専門医機構の指針に基づき運営されています。近年導入された専攻医のシーリング制度は、医師の地域偏在是正のための対策であり、本来の専門医育成のためのシステムとは異なります。さらに、将来の医学研究を担う人材育成の妨げとなり得ます。その打開策の一つとして、日本眼科学会Young Ophthalmologists Committee(YO委員会)の活動をさらに活性化させ、国際的人材の育成、若手眼科医のネットワーク形成、ダイバーシティの推進、リサーチマインドの醸成など、多様な観点から次世代の育成に取り組んでいく所存です。
人工知能AI―眼科から切り拓く未来医療
日本が掲げる国家戦略「Society 5.0」は、現実空間と仮想空間の融合による人間中心社会の構築を目指すものです。その中核技術がAIであり、医療分野にも革新的な変化をもたらしつつあります。眼科領域では、いち早く日本眼科AI学会が設立され、日本眼科学会では世界に先駆けてAIの活用を展開してきました。眼科領域は、画像データが豊富でAIとの親和性が高いことから、未来のAI医療の牽引役を果たすべき分野であると確信しております。
お わ り に
情報化社会の進展により、私たちはかつてない量の情報に接し、それを自由に発信できる時代を迎えています。価値観や生き方が多様化する中にあって、日本眼科学会としても、会員の皆様の声に耳を傾け、対話を重ねながら柔軟かつ力強く学会運営を進めていきたいと考えております。今後の2年間、皆様のご支援とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。