2025/10/10

保険診療を取り巻く昨今の状況New

 このたび、日本眼科学会(日眼)の保険担当理事を拝命いたしました。これまでも日本網膜硝子体学会で保険担当理事を務めてまいりましたが、日眼ではさらに多くの学会と連携させていただくため、身の引き締まる思いです。前任の堀 裕一先生は3期にわたり保険担当理事としてご尽力されましたが、役員の連続就任は3期までと定められているため、退任されました。

 着任して驚いたのは、今期に入って医薬品の製造中止や販売先変更などが急増していることです。4月だけでも20品目程度ありました。薬剤費抑制のためジェネリック薬品の使用を政府が推奨していましたが、大学病院では特定機能病院を維持するために8割以上ジェネリック薬品を使用しないといけなくなっています。ところがそのジェネリック薬品が最近の物価高の影響を受けて、割り当てられた薬価では採算が取れないほどの状況になっているということです。発売中止品目については代用品の有無を調査して、診療に支障が出ないようにしなければなりません。
 一方で病院経営においても人件費や諸経費の高騰により厳しさが増すなか、保険収入は一定であるため、収支が赤字となっている病院や診療所も多いとお聞きしています。病院や診療所だけではなく、製薬会社や製造業にとっても物価高は深刻な問題です。眼科診療を支えるためにこれらの危機を打開していかないといけません。

 そのような中で令和8年度の診療報酬改定に向けて新規医療技術や適応拡大の申請について厚生労働省とのヒアリングが行われました。各外保連加盟団体から提出された申請項目のうち、重要度の高い2項目だけプレゼンが許され、日眼からは「未熟児網膜症に対する抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注入」と「網膜芽細胞腫に対する選択的眼動脈注入」の2項目でした。
 未熟児網膜症においては、抗VEGF薬の硝子体内注入は画期的な治療であり、網膜剝離まで進行してしまう重症例が最近は激減しています。しかし現行では「処置」に分類され、NICUなどに入院中で全身管理が必要な未熟児においては包括入院料に含まれるため、薬剤費を含め個別算定ができないという課題がありました。そこで今回は「術式」としての申請になります。
 網膜芽細胞腫に対する選択的眼動脈注入は日本発の治療であるにもかかわらず、保険収載されていませんでした。鼠径部からカテーテルを挿入し、治療眼の眼動脈分岐後の内頸動脈内でバルーンを膨らませ、治療眼に選択的に抗がん剤を投与します。海外では全身の副作用を軽減できる抗がん剤の選択的投与方法として眼球保存のために用いられています。
 日本眼科医会からは「水晶体再建術の増点」と「眼底三次元画像解析と眼底写真の同時算定」、日本角膜学会からは「マイボーム腺機能検査」と「角膜移植術の増点」、日本網膜硝子体学会からは「デジタル手術加算(ヘッズアップ手術などと日本白内障屈折矯正手術学会と共同でトーリック眼内レンズに対するマーカレス表示)」と「眼底カメラ撮影の広角眼底撮影加算の適応拡大(現在は対象疾患が限られ、蛍光眼底撮影と同時算定のみ)」、日本緑内障学会からは「緑内障治療管理料」と「緑内障手術(流出路再建術)(眼内法)の施設基準の見直し」についてプレゼンが行われました。その他にもテノン囊下麻酔のように、申請項目は多くあります。
 前回の申請ではコロナ禍の影響もあり眼科から申請した項目は一部を除いてほとんどが認められませんでした。できるだけスムーズに申請を認めていただくように尽力したいと思います。審議官が基準にしているのは、その治療に対するエビデンスがあるかどうかです。特に診療ガイドラインに記載されているかもポイントになります。日眼からのプレゼンである未熟児網膜症に対する抗VEGF薬の硝子体内注入は本邦の治療ガイドラインに、網膜芽細胞腫に対する選択的眼動脈注入は海外で治療ガイドラインに記載されています。

 さて、最近ですが、日眼の学術奨励賞の選考会議を行いました。各応募者からの申請書類に基づき、「申請論文の評価」「関連連作論文を含む過去の業績」「応募者の将来性」を評価項目として協議しました。その結果、今年度も優秀な応募者の中から5名を選出しました。受賞者は、来年の日眼総会にて表彰するとともに、シンポジウムにおいて受賞論文の研究を発表していただきます。世界的にもレベルが高い日本の眼科研究の一端を垣間見て、選考委員の一人として大いに刺激を受けました。今後も日本の眼科の将来を見据えながら微力ではありますが尽力してまいりたいと思います。

公益財団法人日本眼科学会
常務理事 井上  真