2025/12/10

シーリングの現状と今後New

 専門医制度におけるシーリングとは、2018年度より医師の地域偏在や診療科偏在を是正するために設けられた制度であり、医師多数の都道府県の研修プログラムを中心として募集枠に一定数の上限が設定されるというものです。2026年度のシーリングではいくつかの変更が決定され、さらに2027年度以降のシーリングの議論もすでに開始されていることから、今回はその内容について紹介したいと思います。

 
 2026年度のシーリングの変化

 2025年度までは、眼科は5つの都府県(東京都、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県)がシーリング対象となっており、これらの都府県で採用できる専攻医の数が決められていました。
 2026年度では、東京都と京都府のシーリングの定員総数は変わりませんでしたが、足下充足率が0.7以下の県(眼科では青森県、岩手県、秋田県、福島県、新潟県)の医師少数区域に赴任しなければならない特別地域連携プログラムがシーリングの枠の中に組み込まれてしまいました。また、東京都と京都府では他の連携プログラムも増やされ、その結果、通常枠が大幅に減らされることになりました。また、大阪府と兵庫県は連携プログラムがなくなり、通常枠のみとなりました。さらに福岡県ではシーリングは撤廃されました。
 これに加えて、東京都、京都府、大阪府の各基幹施設では、シーリング地域外への指導医の派遣実績(どれくらいの指導医をシーリング地域外の病院に派遣しているかという実績)を提出しなければならないことになり、その実績をもって日本専門医機構から最終的な通常枠が決められることになりました。

 
 2027年度以降のシーリング(案)について

 すでに2027年度のシーリング案の検討も始まっています。これまでの推計では、「足下医師数」の足下の時点を、当時参照可能だった最新の三師調査である2018年としていました。また「将来必要医師数」については、医師確保計画などのスケジュールを踏まえて2024年、2030年および2036年の3時点の推計を算出したうえで、シーリング対象の基準として用いる時点を最も近い将来である2024年としていました。今回は、前回と同様の考え方により、「足下医師数」の足下の時点を参照可能な最新の三師調査より2022年とし、将来時点の必要医師数については都道府県が策定する医師確保計画などの計画期間を踏まえた2030年とすることを想定しています。そのデータに基づき、以下のような変更案が提案されています。
 (1)上記の最新のデータを用いて、新たにシーリングがかけられる都道府県とシーリング数の計算が見直されました。これによると、眼科はこれまでシーリング対象ではなかった複数の県が新たにシーリング対象となる可能性が示されています。
 (2)特別地域連携プログラムの連携先要件である「足下充足率の基準」を0.7から0.8に引き上げる案が出されています。もしこの案が採用されるとなると、現行の連携プログラムの都道府県限定分の基準(足下充足率が0.8以下)と同じ値となってしまいます。そこで、制度をシンプルなものとする観点から、連携プログラムの都道府県限定分を特別地域連携プログラムと統合する案が出されています。もし統合した場合、研修期間を都道府県限定分に合わせて1年半以上とするのか、特別地域連携プログラムに合わせて1年以上とするのかは、まだ決定していません。
 (3)特別地域連携プログラムの連携先はこれまで医師少数地域に限られていましたが、都道府県が必要と認めた場合に限り、他の区域に所在する施設でも研修を実施できるようにしてはどうかという案が出されています。つまり、県庁所在地付近の病院や大学病院でも研修できるようにしてはどうかという新しい案であり、これは日本眼科学会が日本専門医機構にずっと要望してきた案と一致します。
 これまで長い間古いデータを用いて計算されてきたシーリング地域とシーリング数に関して最新のデータを用いて計算のやり直しが行われたことは大きな改善点であると思われます。しかし、東京都や京都府の基幹施設は条件が一層厳しいものとなり、基幹施設における教育や研究に影響が出ることは必至です。今後は特別地域連携プログラムが本格的に動き出すことになりそうですが、医師少数地域の病院で1年間だけ勤務する専攻医を教育する受け入れ側の病院の指導医が疲弊してしまわないかという懸念も出されています。 

公益財団法人日本眼科学会
常務理事 近藤 峰生