2021/11/10

目の健康寿命をチェック

 9月30日に第19回日本眼科記者懇談会が行われ、日本眼科啓発会議が準備を行ってきましたアイフレイル対策活動がパブリックにアナウンスされました。アイフレイル対策活動のスローガンは「目の健康寿命をチェック」です。2018年の我が国の平均寿命は男性が81.25歳、女性が87.32歳とさらに延長しています。一方で、健康寿命(2016年)は男性が72.14歳、女性が74.79歳であり、平均寿命とは約10年の隔たりがあります。政府は「人生100年時代構想」を掲げ、厚生労働省の「健康日本21(第2次)」でも「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」を目標に挙げています。
 アイフレイルは「加齢に伴って眼の脆弱性が増加した状態に、様々な外的・内的要因が加わることによって視機能が低下した状態」を示す概念です。加齢により、眼球は構造的・機能的に予備能力が低下し、様々なストレスに対して脆弱になってきます。最初は無症状であったり、時に、見にくさや不快感として自覚する程度でしょう。それを放置していると、さらに脆弱性が増し、障害を発症すると視機能の低下が顕在化します。重度の視機能障害に陥ると、視機能の回復は難しくなり、日常生活は制限されてきます。早期に発見することで、適切な介入が可能となり、ある程度の機能を回復させること、進行を遅らせること、症状を緩和させることが期待できます。
 アイフレイルは身体的フレイルの一要素であり、高度な視機能低下に陥ると健康寿命を短縮させます。それだけでなく、アイフレイルは転倒のリスクを増加させたり、 認知症を進行させたり、社会参加の妨げとなるなど、フレイルを悪化させることによっても健康寿命を短縮させます。今回、急速に広がりを見せているフレイル対策とタッグを組むことで、国民の健康増進に貢献したいと真摯に取り組んでいます。
 ふと気づいた見にくさを、「歳のせい」として片付けないで、自分自身の見る力を振り返る機会とし、一生涯にわたり、読書、運転、スポーツ、趣味などの人生の楽しみ、快適な日常生活を維持するための活動を目指しています。一番のターゲットである40歳以上の目の衰えを感じ始めた世代を対象に、自分の目を大切にしてほしいと、キャッチコピーは「がんばってきた目とこれからも仲良く」に決定しました。セルフチェック、検診を通して、アイフレイルを早期に発見するため、「40歳を過ぎたら、点検という感謝を!」と、行動を促しています。
 アイフレイル対策活動が身近な活動になるようにホームページ(www.eye-frail.jp)を開設し、ポスターを準備しました。この活動を実りあるものにするために、まずは、眼科医療関係者にアイフレイル対策活動の意義・内容を理解していただく必要があります。そのために、『日本の眼科』9月号に同封の「アイフレイルガイドブック」をぜひ、ご一読ください。また、ホームページからもダウンロード可能です。
 アイフレイル対策活動を進めるに当たって、最初に対応する眼科医の役割は重要です。アイフレイルの範囲は幅広く、重篤な視機能低下のリスクが高いケースから、何となく見にくい・調子が悪いと感じたケースまで幅広い状態を含んでいます。セルフチェックで、「自分はもしかしたらアイフレイルかも?」と気になったケースもあるでしょう。そのような方に、緑内障・糖尿病網膜症・加齢黄斑変性など重篤な視機能障害の原因となり得る疾患の有無を判断するのは眼科医の役割です。しかし、むしろ、すぐに重篤な視機能低下につながらないケースの方が多いでしょう。その際に、単に「歳のせい」と片付けてしまうと、せっかく自分自身の目の健康維持が必要であることに気づいた人のチャンスを台無しにしてしまいます。自身の目の衰え・異常を感じた方には、症状の改善のためのプチビジョンケア(ガイドブック参照)を行うことも有効です。効果を実感することによって、その後も自分の目に関心を持ち続けることができます。このようなプチビジョンケアには視能訓練士の協力も欠かせません。
 「アイフレイル対策活動」がまずは眼科医療関係者の皆様に、そして、国民の皆様に愛されるワードとなり、健康増進に貢献できることを願っています。

公益財団法人 日本眼科学会
常務理事 辻川 明孝