理事会から

2022/01/11

リアル学会はやはり良かった~コロナ禍における臨眼に参加して

 オンラインの便利さに慣れてしまい、外出自粛要請もあって、ついつい何でも在宅で済ませてしまおうとなりがちな昨今ですが、2021年10月28日~31日に行われた第75回日本臨床眼科学会(福岡市)に参加し、対面での学会の素晴らしさを再認識してきました。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第5波が収まり、緊急事態宣言も解除されたことから、ハイブリッド形式で開催すると坂本泰二学会長と鵜木一彦副学会長が決断されたものです。感染症対策を徹底的に行ったうえでの現地開催であり、混乱や遅延はなく、非常にスムースに運営されていました。主催校をはじめとする関係各位が緻密に準備・計画された、素晴らしいオペレーションでした。

 学会場の様子は?
 最終日の時点で9,400名の登録があり、そのうち約2,000名が実際に来場したとのことです。したがって、学会場が密になることはなく、ランチョンセミナーやインストラクションコースにつきものの、行列もみられませんでした。
 会場内は適度な間隔で聴衆が入っており、質疑応答もそれなりに行われていました。会場での質疑応答に加え、オンラインでの質問も寄せられており、まさにハイブリッドでの学会進行でありました。現場とオンラインの両方を取り仕切られた座長の先生方、ご苦労様でした。

 質問はスッピンでも大丈夫
 「オンラインで質問すると質問者の顔が映るの?」と心配されていた方がおられましたが、チャットでのQ/Aですので、文字のやり取りだけです。ご自宅でリラックスしてご質問ください。寝間着でも普段着でも構いませんし、お化粧も不要です。夜中にこっそり近所のコンビニに行くぐらいの感覚でどうぞ。

 あちらこちらで久し振り!
 なにしろかなりの期間、実際に会う機会のなかった方がほとんどです。あちらこちらで、face to faceでの再会を楽しむ姿がみられました。リアルで話をするというのは、本当に良いものです。「雑談こそアイデアの宝庫」、「世間話こそ最強のビジネスツール」ともいいます。コロナ禍では誰しも、密を避け、直接の会話を避け、余白を減らした生活を強いられてきましたが、対面in personでの会話は久し振りに気分を高めてくれます。

 シュールな会議
 参加予定者18人のうち、17人が現地で出席し、一人だけオンラインという会議がありました。その一人のオンラインの方のために、残りの全員がヘッドフォン(イヤフォン)をして目の前のノートパソコンを見つめている、というナントモな光景が展開されました。レストランで向かい合わせに座っていても、ずっとスマホの画面を見ているカップルのようなものです。
 こんな奇妙なことは、移行期だからこそでしょう。以前であれば現地出席が原則、それが無理な方が補助的にオンラインで陪席、でありました。今後はどうなっていくのか。メタバース(ネット上の仮想世界)のような、realとvirtualのバランスを上手く取った方法が考えられ、広まっていくのではないでしょうか。

 ライブとオンデマンド~すべてのライブ配信は難しい
 この2年間、オンライン形式の学会や講習会が多く行われ、その利点は広く知られるようになりました。自宅で、他のことをしながら聴講できるというのは、確かに楽ですし、メリットが多いですね。オンデマンドであれば好きな時間に聴講できますし、聞き返したり、早送りしたりすることも可能です。今後、コロナ禍が収まったとしても、オンライン配信形式は併存していくでしょう。
 現地参加できない先生方から、学会場の模様をすべてライブで配信して欲しい、との要望が多く寄せられます。しかし、ライブ配信にはかなりの費用が掛かります。すべての会場からライブ配信を行うことは、予算面で現実的ではありません。一部のみライブ配信とし、他はオンデマンド形式で後日配信するという形式が妥当な運用方法となります。ご理解いただければと思います。

 器械展示・書籍展示に行こう
 これまでオンラインでいくら工夫しても、器械展示と書籍展示だけは全く成果が上がりませんでした。今回、もちろん以前ほどではないにしても、器械展示や書籍展示に賑わい(人流)が戻り、製品を直接触ってのやり取りが復活していました。医療の発展のためにも、また学会がきちんと成立するためにも、必要なことだと思います。器械も書籍も、実際に触れて手に取ってみてナンボです。米、水、洗剤などはネット通販で買っても、靴や洋服は実際の店舗でしか買わないという人は多いですよね。

 人  流?
 ところで、人流というのは最近耳にする言葉ですが、今一つしっくりきません。❝物流❞に対する❝人の流れ❞を人流と呼び出したのでしょうが、日本語には古来、❝人出❞という言葉があります。人流と人出ではニュアンスが違うということでしょうが、個人的にはまだ馴染んでおりません。
 ちなみに、「じんりゅう」と聞いて海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦、「仁龍」を思い浮かべる方は、相当な通というか軍事オタクです。

 オンライン会議は定着したが、オンライン飲み会は廃れつつある
 コロナ後のニューノーマルとして、「オンライン会議」はすっかり定着しました。わざわざ集まる必要があるほど込み入った会議はほとんどないということが、すっかりバレてしまい、便利なリモート開催で十分という意識が行き渡りました。
 一方で、「オンライン飲み会」は、あまり定着していません。一時ほど行われていないのではないでしょうか。メリットはあるものの、デメリットも多く、やはり飲み会に必須のライブ感に欠け、クロストークができないというのが致命的です。「オンライン飲み会」と「リアル飲み会」は、アン・ルイスと半ライスぐらい違います。
 学会は、会議と飲み会の中間といったところでしょうか。オンラインで十分な側面もあれば、ライブ感やダイレクト感が必要とされる側面もあります。ハイブリッド学会はそれに対する一つの回答ということでしょう。

 最 後 に
 今回の臨床眼科学会は、自粛続きの学会が、復活への狼煙を上げる幕開けの機会となるでしょう。実際に参加してみて、新しい学会形態への移行期にあるのだな、と感じる場面が少なくありませんでした。コロナ禍は不幸なことではありましたが、これを奇禍として、従来型学会の良いところと、IoTを駆使したvirtual meetingの良いところを取り入れた、新形態への模索が続いていくものと思います。こういった変革期の渦中に身を置くことは、とても楽しく、ワクワクします。
 最後に、困難な状況の中、工夫を凝らして見事な学会を開催していただいた鹿児島大学眼科医局をはじめとする関係の皆様に、改めて御礼を申し上げます。大変なご苦労とご心労があったことでしょう。久々の大規模な全国学会、干天の慈雨のように、染み渡りました。

公益財団法人 日本眼科学会
理事長 大鹿 哲郎